作業中の事故から命を守る

キーワード:農作業事故
作業事故で多い指の切断は、軟部組織の再建や感染症の治療などで3回以上の手術を繰り返すことが多いです。
作業事故で多い指の切断は、軟部組織の再建や感染症の治療などで3回以上の手術を繰り返すことが多いです。

不運にも事故に遭ってしまったら、治療や仕事はどうなるのでしょう。十勝の基幹病院で農作業事故のけがを数多く治療している整形外科医、本宮真先生に聞きました。

この記事は2021年8月1日に掲載された情報となります。

JA北海道厚生連 帯広厚生病院 手外科センター センター長(手外科専門医) 本宮 真 医師

JA北海道厚生連 帯広厚生病院
手外科センター センター長(手外科専門医)
本宮 真 医師

上肢外傷の症例

482

労災患者のうち休業補償申請数

818

過去4年間(2013年11月〜2016年7月)に帯広厚生病院を受診した農業者を含む労災患者のうち休業申請の症例は818件です。
818件のうち、上肢外傷(手や腕のけが)が482件と全体の59%を占めています。

業者に多い指の切断事故

帯広厚生病院は十勝地区で唯、3次救命センターを有する基幹病院です。労災事故をはじめ管内の重度外傷患者は、すべてここに搬送されてきます。

「農業の事故は9〜10月の収穫期に多く、中でもポテトハーベスターに巻き込まれた上肢(手)のけがが最多です。農業機械事故の半数以上が60歳以上で、高齢者が多いのも特徴です」

詳しく教えてくれたのは、整形外科医の本宮先生。同病院の整形外科では医師らが上肢・下肢・脊柱と3グループに分かれ専門性を高めて治療にあたっており、本宮先生はそのうちの上肢(手)の治療を担当しています。

般的に整形外科というと骨や関節を治すイメージがありますが、私の所属する手外科センターは切断した手指の再接着、損傷した腱や血管の再建など特殊な領域を専門にしています」

同病院で治療した農業機械による手外科外傷患者は、過去4年間で45人。そのうち19人が指の切断でした。指の再接着は血行再建など大がかりな治療が必要で3カ月以上かかることが多いため、中には指の接着を諦めて仕事に復帰する人もいるそうです。

納得した治療を受けるためには、「自分がけがで働けなくなった場合、誰に助けてもらえるかシミュレーションしておくべき」だと本宮先生は話します。サポート体制を地域で考えておくのもいいでしょう。

急時連絡システムの必要性

農業機械による外傷のもうつの特徴は、感染症の危険が大きいことです。「土壌細菌による感染症は治療が難しく、建設業などのけがとは治療戦略から違ってきます。

けがをした時は、感染症を防ぐため、患部を水道水できれいに洗い流してから病院へ急いでください」と本宮先生。特に怖いのは刃が複雑な玉ねぎの収穫機で、多重損傷するため指をつなぐのが難しくなるそうです。

事故の際の連絡体制を事前に考えておくことも重要です。圃場や倉庫で人で作業している時に事故に遭うと、誰にも気付かれずに長時間が経過してしまう場合もあるからです。「心拍数を計測できるスマートウォッチなどを使い、突発的な事故で意識を失っても、離れた家族にSOSが届くようなシステムが開発されればいいですよね」と本宮先生。

近くに病院がない地域では、お互いに助け合うために救命救急のトレーニングを受けておくことも効果的かもしれません。

療現場から危険を発信

農作業事故は死亡事故以外は報告の義務がなく、実態把握が難しいのが現状です。そのため、本宮先生は臨床で得た知見を学会や雑誌へ積極的に発表しています。医療現場から発信することが医療者の責務だと考えるからです。

「トラクターは死亡事故が減ってきました。これはトラクターの事故で死亡症例が多いことが明らかになり、自動運転などの安全対策が飛躍的に進んだからです。

方で、死亡に至らない収穫用機械の巻き込まれ事故は、数が多いのに周知されているとはいえません。私たちがデータを明らかにすれば、収穫機械の安全装置や事故防止対策も進むのではないかと思ってコツコツと研究を続けています」

農作業事故の安全に対する機構が整備され、効果的な対策が講じられてほしいと本宮先生は考えています。


出血している時

出血している時

●傷口はガーゼなどで押さえて圧迫止血してください。出血が多いとゴムなどで縛って止血したくなりますが、中途半端な止血は出血を助長してしまう場合も。局所を圧迫して救急車を呼んでください。
●現場でできる応急処置として大切なのは、土を洗い流すこと。消毒液などではなく、水道水で傷口を何度も洗い流してください。

指を切断してしまったら

指を切断してしまったら

●指の切断は、傷口を水道水で洗い流し、指先を回収してください。指先を水に浸したり凍らせたり、乾燥してしまうと組織が痛み、再建しづらくなります。
●ハンカチなどを水道水で濡らし、しっかり絞って指先を包み、ビニール袋に入れ、そのビニール袋ごと氷水にひたして病院に持ってきてください。

救急車を呼ぶ目安

救急車を呼ぶ目安

●緊急時はまず意識があるか、呼吸があるか、心拍があるかを確認してください。胸や腰を打った場合、自分で動けない、手足がしびれているようなら、すぐ救急車を呼んでください。
●頭を打って吐き気やめまいがある場合、一瞬でも意識を消失した場合は救急車を。骨折も骨が皮膚から飛び出しているようなら命に直結するので急いで119番へ連絡を。