この記事は2018年6月1日に掲載された情報となります。
道内各地で広がる、GPSガイダンスシステムとトラクター自動操舵補助装置の活用。昨年3月、管内3カ所にRTK基地局を設置した「JAようてい」の事例を紹介します。
JAようてい 営農経済事業本部
地域振興課 係長 馬着 隆幸さん
JAようてい 営農経済事業本部
本部長 石崎 克典さん
きっかけは組合員の要望から
RTK基地局を設置した経緯について、JAようていの石崎克典さんはこう説明します。
「地区別懇談会で組合員さんからアンテナの要望があり、アンケートで需要を調査したところ、設置を希望する意見が多く寄せられました。ちょうどホクレンでインターネット回線を使った低コストRTKの実証試験が始まったので、うちも導入しようということになったのです」
基地局を設置したのは、黒松内支所、留寿都支所、倶知安支所の3カ所。半径30キロの円を描きながら、JA管内全域をカバーできるよう選定したそうです。利用を希望する組合員向けに説明会を3回実施。GPSガイダンスシステムと自動操舵補助装置の説明から、スマホのアプリの設定方法、トラクターの実演まで、段階を踏んで周知を図りました。
実際に稼働したのは去年の4月から。利用状況を調査すると、春の耕起・砕土・整地作業はもちろん、播種、施肥・防除などの管理、収穫・刈り取りまで、年間を通じて自動操舵トラクターが利用されたことが分かりました。なかでも高い精度が必要な「播種」に利用した組合員が多かったようです。
利用申し込みは増加の一途
「スタート時点は37件でしたが、随時申し込みが増え、今は61(5月9日時点)件で利用されています。実際に自動操舵を活用している様子を見て、導入を決意した組合員さんも多いようです」と話すのは馬着隆幸さん。昨春はスマホの設定や接続の仕方などで組合員から問い合わせが殺到し、右往左往した経験があったそうです。
今後、導入を検討中のJAには「ガイダンスの設定はメーカーなどの購入先へ、アンテナやスマホの受信については農協へと、あらかじめ役割分担しておいたほうが良い」とアドバイスします。
「一度覚えてしまえば使い方は簡単です。自動操舵の利用台数を増やしたいという方も多いですし、どんどん普及すると思います」と馬着さん。JAようていでは、これからもスマート農業の実践を支援していく考えです。
Case-A
倶知安町の三好紳仁さん(58歳・写真左)と甥の三木応也さん(34歳・写真右)。
三好さん夫婦と三木さん夫婦の4人で、24haの面積に小麦・小豆・馬鈴しょ・ビートを生産しています。
昨春、GPSガイダンスシステムと自動操舵補助装置を装着したヤンマーYT(113馬力)を購入。長いところで270mもある圃場をまっすぐに走る自動操舵の効果を実感し、今年は手持ちのトラクターにも取り付けました。
植え付けを中心に、畑起こし、施肥、収穫に活用しています。
経験年数が浅い甥っ子でも安心して乗れます。(三好さん)
導入のきっかけは甥の就農
JAようていがRTK基地局設置したのを機に、自動操舵トラクターを導入した三好紳仁さん。
「私が就農したころは親父に『真っすぐ走れー』と怒られたもんですが、今は誰が乗っても真っすぐ走る。機械でカバーできるようになるなんて、私の40年の経験はなんだったのか」と少々寂しそうです。
導入のきっかけは、後継者のいなかった三好さんのもとに、去年、甥が「農業をやりたい」と就農したこと。ちょうどトラクターの更新時期だったこともあって、GPSガイダンスと自動操舵補助装置を取り付けて新規購入。トラクター専用のスマホも用意しました。
「ボタンを押したら勝手に走ってくれるので、精神的にラクですよ。なんせ春に曲がってしまうと、秋までそのまま。特に道路ふちは目立つので気になるしね」と三好さん。
甥の三木応也さんも「経験年数が浅くても安心して乗れます」と満足そうです。
去年はビートも好成績
問題は、つい自動操舵のトラクターばかりに頼ってしまうこと。
「従来、トラクター3台にそれぞれ作業機をつけて乗り換えていたんですが、作業機を付け換えてでも自動操舵を使いたくなってしまう」のだそう。
そこで既存のトラクターにも新たに自動操舵を取り付けました。
「うちはビートの移植をしていて、先に肥料をまいてから筋にそって苗を植えるんですが、どうしてもずれてしまうことがある。それが自動操舵だとぴったり軌道の上を走るせいか、去年はビートの成績が良かったんです」と三好さん。
省力化にとどまらないGPSの効果も感じています。
「私もいつまでできるか分からないし、これならアルバイトの方でも操作できるでしょ。畝切りなど収穫までひびく作業は敬遠されがちですけど、これなら頼みやすい」と三好さん。
三木さんも「将来的にはマップデータを取り込んで、圃場全体を管理できるようにしたい」と意欲的。将来を見据えた先行投資の意味もあるようです。
Case-B
JAようていの理事を務める京極町の横井英樹さん(50歳)。
JAようていの組合員の一般的な作付面積が20ha前後なのに対し、平均の倍以上もある43haを夫婦二人で耕作しています。
品目は馬鈴しょ・秋まき小麦・春まき小麦の採種・ビート(移植と直播)・大豆・小豆・そば・アスパラガス。
Hoak135+(ジョンディア6830)にGPSガイダンスと自動操舵補助装置を取り付けて、春と秋に畑起こしに活用。繁忙期の夜間作業に威力を発揮しているそうです。
疲れの度合いがまったく違う。(横井さん)
自動操舵が夜間作業に大活躍
京極町の横井英樹さんも、昨春、トラクターに自動操舵補助装置を取り付けました。主に春と秋の畑作りに使っているといいます。
「面積が大きいのに働き手は私とカミさんだけ。日中は二人で移植やイモ植えをするので、必然的に畑作りは夕方から夜、もしくは早朝にやることになります」
朝方にサブソイラーを引いて畑を乾かし、昼間は播種作業。夕方からヘビーカルチを引いたり、ロータリーをかけたり、繁忙期は夜10時までトラクターに乗っていることもあるとか。
「自動操舵が最も威力を発揮するのは2.5m幅のロータリーかけ。夜は目視が利かないから、掛け合わせが30センチ近くになることもあります。自動操舵だとそれが5センチですむ。3haの畑なら2〜3往復くらい違ってきますから、時間も燃料も節約できます」
ハンドルを握らなくても、モニターのラインを見ているだけなので気楽に作業でき「疲れの度合いがまったく違う。首から腕が本当にラクになった」と導入効果を高く評価しています。
ラインを飛ばす運転も便利
「隣の畝、またその隣の畝と進まずに、ラインを2〜3本分飛ばして走っても掛け合わせがぴったり合うのも便利ですね」と横井さん。畑のヘリでバックしたり、何回も切り返したりする操作も減りました。
このように自動操舵の効果を実感している横井さん。それでも、より精度が求められる畝立てには使っていないと言います。
「山間部で起伏の激しい圃場のせいか、大きな林の近くや切り土の手前で、電波を探してハンドルが揺れるんですよね」。
実際に稼働させると、開けた平野部とは違う課題もあるようです。「そこはこれからの新技術に期待したい」と言いつつも「面積は増えるのに働き手は増えないわけですから、機械にできる部分は機械に任せて、なんとか頑張るという手法にならざるを得ないでしょうね」と展望を語る横井さん。
作業を軽減させる新しい技術にも期待を寄せています。