自動操舵トラクター入門02.基礎知識

イチからわかる、自動操舵トラクターの基本

キーワード:GPSRTKシステムスマート農業人工衛星自動操舵
複数の人工衛星
図3. 1機の人工衛星ではなく、複数の人工衛星の位置を測位することで人工衛星を中心とした球を描き、その交差した点を測定することで正確に位置を把握。衛星の数が多ければそれだけ精度は安定します。

 

この記事は2018年6月1日に掲載された情報となります。

 

なぜ場所が正確に分かるの?どの程度の精度なの?何を準備すれば使えるの?そんな疑問にお答えします!

 


1.GPSはなぜ場所がわかるの?

人工衛星からの信号を受け取って、位置を把握しています。

GPSはカーナビやスマートフォンでおなじみですが、位置測位システムはGPSだけではありません。ロシアのGLONASS(グロナス)やヨーロッパのGALILEO(ガリレオ)など、各国に同じような衛星測位システムがあり、これらを総称してGNSS(Global Navigation Satellite System)と呼びます(図4)。

 

各国の衛星測位システムの総称
図4.各国の衛星測位システムの総称 
※中断、検査、試験中含む 
※参照:内閣府宇宙開発戦略推進事務局ホームページ(2018.4現在)

 

スマートフォンやカーナビは、こうした人工衛星からの信号(電波)を受け取り、その信号の到達時間により縦・横・高さなどの位置情報を割り出しています。正しい位置を把握するには最低4基の衛星からの情報が必要で、衛星の数が多ければ多いほど精度が上がるといわれています(図3)。

一方で、人工衛星からの信号にはどうしても誤差が生じます。衛星の配置や地球の電離層による電波の遅延のほか、受信機の性能、気象条件などにより、±10〜20mの誤差が出るといわれます。また、防風林や倉庫の近くでは跳ね返った信号を拾ってしまうことも多く、これまでは農業分野への活用が進んでいませんでした。

 

準天頂衛星システム「みちびき」の動向

国産の準天頂衛星「みちびき」の活用が本格化すれば、安定した測位ができると期待されています。しかし、RTK並みの測位をするためには、別途、専用の受信機などが必要になります。

なお、平成30年4月からのサービス開始を予定していましたが、11月に延期になっています。

 


2.トラクターはなぜ、正確に作業できるの?

位置測位の誤差を補正して、精度を高める仕組みが不可欠です。

 

通常の測位衛星からの位置情報だけでは誤差が±10〜20mもあり、さすがに農業分野では使えません。そこで精度を更に高めるための技術が活用されています。

ひとつはD-GNSS(ディファレンシャル)方式。静止衛星のひまわりが送信しているGPSの位置情報を補正する信号を受信して、誤差を±20〜30cm程度にまでに縮小します。

 

D-GNSS(ディファレンシャル)方式
トラクターに搭載した受信機が衛星からの信号と同時に補正データも受信する仕組み。±20〜30cmの誤差が生じますが、牧草の播種や管理、収穫など、D-GNSSで問題がない作業もあります。インターネットが使えない場所でも使うことができます。

 

もうひとつ、さらに精度の高いのがRTK-GNSS方式で、誤差が±2〜3cmにまで縮まります。RTKには補正信号を受け取る方式として、「無線式」とインターネットを使った「Ntrip(エヌトリップ)式」があります。

 

RTK-GNSS方式
インターネットを使ったNtrip式は、RTK基地局(アンテナ)から半径20km程度の範囲で利用されています。また、インターネットを使わない無線式は基地局から5Km程度で利用されています。

 

無線式は利用エリアが基地局から半径5kmといわれているのに対し、Ntrip式は半径20km程度と広範囲で、地形や障害物の影響を受けにくい方式です。道内では、両方式の特徴や地形などを踏まえ、それぞれの地域に適する方式が選ばれています。

 


3.RTK(Ntrip式)を活用した、自動操舵には何が必要?

ガイダンスシステム、自動操舵補助装置、スマートフォンなどが必要です。

 

トラクターの上にGNSSの受信アンテナを取り付け、ガイダンスシステムと自動操舵補助装置などを接続します。

RTK基地局からの補正信号はインターネット回線を通してスマートフォンで受信し、Bluetooth※1方式でガイダンスに飛ばします。RTKのガイダンスシステムと自動操舵補助装置も含めると250万円程度です。

※1 Bluetooth:機器間のデータのやり取りに用いる無線の通信規格のひとつ。

 

コックピット内部
キャビンのあるトラクターなら、ガイダンスシステムと自動操舵補助装置を取り付けられます。
※RTK基地局からの補正情報はスマートフォンからBluetooth方式でガイダンスに飛ばします。そのため、ガイダンスシステムを使用するためにはスマホ(Android)を用意しなければなりません。スマホの利用者契約と通信料も必要になります。

スマートフォン


4.トラクターを導くガイダンスシステムとは

トラクターの位置をリアルタイムで把握。農作業のラインをモニターに表示してガイドします。

 

ガイダンスシステムはトラクターの正確な位置をリアルタイムで把握し、モニター上で走行経路を表示します。

利用時はまず作業したい方向を決め、始点から終点までトラクターを移動して基準線を設定。作業機の幅や掛け合わせの幅を入力すると、基準線に並行に等間隔のガイドラインを表示します。

RTK方式の場合、誤差が±2〜3cmなので、自動操舵で活用する場合、掛け合わせは5cmくらいで充分です。ガイダンスシステムだけでは自動操舵はできませんが、自動操舵補助装置を取り付けると、直線部分のステアリング操作を自動で行ってくれます。

作業が完了した部分は、モニター上に色分けされて表示されるので、作業跡が正確に確認でき、作業中断からの再開時に便利。基準線は一度登録してしまえば、毎年利用が可能です。

ガイダンス本体は多くのメーカーからさまざまな機種が発売されているので、購入の際は、RTKや自動操舵補助装置にも対応しているか確認してください。

 

ガイダンス本体
カーナビとは違い、マップ情報は入っていませんが、作業する圃場ごとに設定した内容などが保存されます。

 

ガイダンス本体2
※他にもさまざまなメーカーからガイダンス本体が発売されています。

 


5.トラクターのステアリングを自動で動かす自動操舵補助装置

自動操舵補助装置は手持ちのトラクターに後付けできます。取り付ければ直進部分は手放し運転が可能。

 

自動操舵補助装置はガイダンスシステムと連動し、直進走行をアシストするオプション装置です。ガイダンスのモニターをタッチすると、トラクターがガイドラインに沿って走行するように、ステアリングを自動で操作します。

ハンドルを握って微調整しなくても手放しで真っすぐ進むので、直線距離の長い畑ほど便利です。通常、旋回する時はマニュアル操作なので、自分でハンドルを切る必要があります。また、登録した作業履歴を呼び出して、次回の作業に活用することもできます。

装置には外付けタイプ、ステアリングタイプ、油圧制御タイプなどがあり、機能によっても価格が違います。

 

外付けタイプ
外付けタイプ

 

ステアリングタイプ
ステアリングタイプ

 

油圧制御タイプ
油圧制御タイプ
※上の写真は自動操舵補助装置の一例。

 

また、装置によっては前進のみか、前後進でも使用できるタイプがあり、使用可能な作業速度もメーカーにより異なるので、使いたい用途に合わせて自動操舵補助装置を選んでください。