この記事は2017年10月1日に掲載された情報となります。
離農者と新規就農者をつなぐ「経営継承」。経営継承に向け地域全体でバックアップ体制を整え、就農者が増え続けているJAけねべつの取り組みを紹介します。
JAけねべつ
営農部 部長 金野 智樹さん
「安心して仕事や子育てができるような環境を作ることが重要です」
本音を知ることから始める
JAけねべつ管内の生乳出荷戸数は140戸、畑作は1戸で、中標津町と別海町の二つの町にまたがっています。他の地域と同じように高齢化や離農者の増加、後継者不足という問題を抱えていました。
そこで行ったのが組合員の「本音」を知ること。平成22年に、それまでタブーだった「今後の経営の展望」などのアンケート調査を実施した結果、約3割の組合員が将来的に離農を考えていることが判明。早急な対策が必要となりました。
翌年、モデルケースとして4組が同時に経営継承をスタート、しかし研修期間中に予期せぬトラブルや問題が次々に発生。
「牛の扱いひとつとっても長年やってきたやり方と研修で学んだ方法の違いなどで揉め事になります。譲渡する側にはあくまで“研修”の受け入れ、受け継ぐ側には“修行”なんだと言い聞かせ、当事者同士だと感情が入るので我々がクッションとなり、ひとつひとつ解決していきました。1戸は継承に至りませんでしたが、その経験が後につながりました」と金野智樹営農部長は当時を振り返ります。
きめ細かなバックアップ
JAけねべつでは、平成23年以降14戸が新規就農し、うち5戸が経営継承です。譲渡希望者は2~3年前にJAに意思を表示。新規就農希望者は、担い手育成センターなどを通し全国から募り、面接などを経てJA 管内の酪農家や、連携している別海町酪農研修牧場で酪農の基礎を学びます。その間に譲渡希望者とマッチングし、実際にその家での研修も行いながら、合わせて2〜3年の研修の後、経営継承となります。
金銭面では、新規就農者の生活を考えて綿密な返済計画を立て、資産の継承は土地や建物、家畜などの「農業経営継承についての合意書」の他に、経営者が変わる時点でも「端境期確認表」を作成。「継承月の電気代の支払」「継承日に生まれた子牛の所有権」など個々に合わせて書面でお互いに確認することで、トラブル防止にもつながります。
また、個別にJA、町、ホクレン、北海道農業公社、ベテラン酪農家などによる「バックアップチーム」を立ち上げ、TMRセンターでも新規就農者を率先して受け入れるなど地域が一体となった支援体制を整えています。
地域を巻き込んで新規就農者を応援
JAけねべつの新規就農者数は、全国的にみても高い状況です。しかし、課題がないわけではありません。ひとつは譲渡希望者と新規就農者のバランス。
もうひとつは子育ての問題です。新規就農者は30~40代の子育て世代が多く、牛の世話をしながら家事や子育てをする奥さんの負担が大きくなります。「今後は安心して仕事も子育てもできるように、自治体などと連携して環境を整え、地域全体で見守る仕組みづくりが重要」と金野部長は話します。
こうした取り組みが注目され、就農希望者から問い合わせもあり、平成30年度中には4組が新たに就農を予定しています。
計画以上の手応えを実感しています
平成27年に「経営継承」で新規就農した中標津町西竹地区在住の齋藤誠さん(38歳)、友美さん(30歳)ご夫婦。誠さんは、会社員時代に仕事でたびたび酪農家を訪れていたことで酪農に興味を持ったそうで、実家が酪農を営んでいる友美さんとの出会いもあり、結婚を機に酪農家を目指しました。
「酪農は、自分の考えのもとで仕事ができる点と、頑張りが自分に返るのが魅力」と話すおふたり。別海町酪農研修牧場で酪農経営の知識や技術を学んだ後、JAから紹介された譲渡者のもとで1年間研修を受けました。初めは不安もありましたが、JAや町などが就農までのフォロー体制を万全に整えてくれたことで「自分で考える必要がないほど」頼りになったと振り返ります。
齋藤さんの場合、譲渡者自身も経営継承を利用して就農した方。譲渡する側される側、両方の立場を経験していることもあって良好な関係を保つことができたことも大きかったようです。
建物等も引き継ぎ前に全て改修を終えスムーズにスタートを切り、就農から3年の現在、経営面でも当初の計画以上の成果を上げています。3人の娘さんの成長とともに牧場の未来にも明るい光を感じているようです。