この記事は2017年2月1日に掲載された情報となります。
ICT(情報通信技術)やGPS(衛星利用測位システム)を駆使して、省力化や精密化を実現する「スマート農業」。その最新技術を紹介する大規模な展示会が、昨年末、北海道で初めて開催されました。
農業の未来が見えてきた!
スマート農業とは、「賢い」農業の意味。最新のロボット技術やICTを活用して、超省力・高品質生産を実現する新しい農業を指す言葉です。
今回の「スマート農業フェア」では、61の企業や団体がそれぞれのブースで最新機器を展示。無線リモコンで遠隔操作できるトラクターや、農薬散布のドローン、重い荷物も楽に扱えるアシストスーツなど、農業の未来を変える先端技術を一堂に集めて紹介しました。
単なる展示にとどまらず、実演や体験コーナーも用意。専門家によるセミナーも実施して「スマート農業」について学ぶ機会も提供しました。
2日間の来場者は約5千人。道央圏だけではなく、上川やオホーツク、十勝などからも大勢の来場があり、関心の高さがうかがわれました。今回の特集では、フェアの様子をレポートでご紹介します。
DATA:1,325 名の方が関心を寄せたものは?
来場者約5,000 名のうちアンケートにお答えいただいたのは、1,325 名。興味を持った展示などをお聞きしました。
●Future
スマート農業で、働き方が変わる
これまで農業機械の活用は、人手不足や高齢化への対応策、つまり省力化が主な目的と考えられてきました。しかしスマート農業の価値はそれだけではありません。インターネットやGPS の普及で、経営の効率化やコスト削減、作物の品質向上、栽培技術の蓄積など、さまざまな課題に大きな効果が期待できるようになりました。
今回のフェアでは、そうした農業の新しいかたちを肌で実感できた人も多かったはずです。GPS、センシング、営農管理システム、ドローン、アシストスーツなど、先進技術がテーマごとに展示されたため、各メーカーの違いがわかりやすく、また、ドローンの実演やアシストスーツの試着、自動操舵トラクターの試乗など、実際に体験できる内容が多いのもフェアの特徴でした。
会場でひときわ注目を集めたのは、実証実験中の無人走行トラクター。実用化されれば1人で2台を同時操作する協調作業にもつながる技術とあって、来場者から「発売はいつごろ?」などの質問が相次いでいました。
アシストスーツ
農作業の負荷を軽減
重い荷物の持ち上げや積み下ろしなどの作業負担を軽減するアシストスーツ。体験コーナーは多くの人で賑わっていました。
クボタが今年発売予定のウィンチ型のアシストスーツは、リュックを背負うように背中に装着し、コンテナに引き上げ用のフックを引っかけると、モーターの力で約20キロまでの荷物を持ち上げられる仕組みです。
一方、ニッカリが参考商品として出品したアシストスーツは、腰に装着して積み上げや積み下ろしを支援するもの。担当者は「60〜70代になっても腰痛と無縁でいられるよう、40〜50代のうちから使ってほしいですね」と話していました。
アシストスーツ体験エリア
アシストスーツを実際に装着して試すことができる体験コーナーは常時人だかりができるほど大盛況。実際に体験した方は「スーツ自体の重さは感じません。中腰の作業にはいいかもしれませんね」と感想を教えてくれました。
GIS
GIS (地理情報システム) の活用
※ GIS:Geographic Information System(地理情報システム) の略。
位置データ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示して高度な分析や迅速な判断を可能にするGIS の活用も始まっています。
日立ソリューションズ東日本では、ドローンで撮影した画像を地図システムに取り込みインターネットで公開するアプリケーションを開発。生産者が圃場の画像パソコンやスマホで確認できるようにしました。
目視では確認できない圃場の中央部分まで高解像度でチェックでき、JA との情報共有も可能。GIS の活用範囲はまだまだ広がりそうです。
スマート農業セミナーを開催
会場内のステージでは、北海道大学大学院の野口伸教授による「スマート農業によるイノベーション」ほか、さまざまなセミナーを開催。事前予約制で行った専門セミナーも全てが満席で、スマート農業に対する関心の高さがうかがわれました。
営農管理システム
課題を「見える化」する技術
農業経営を支援する営農管理システムも多彩なラインナップが揃いました。生産履歴をクラウドのサーバーに蓄積し、パソコンやスマホなどの端末から必要な情報をいつでも引き出せる生産管理のシステムをはじめ、JA・経済連向けに営農指導用のシステム、販売システムなどが紹介されました。
NEC では生産者向けにGAP(農業生産工程管理)の認証支援サービスを開発。管理のデータを蓄積し、自己点検して認証団体に開示するシステムを提案していました。膨大な情報を蓄積して整理することで、改善するべき課題が「見える化」されるのがメリットです。
センシング
離れた場所で現場の状況を確認
センシングは、さまざまなセンサーを利用して水分量、EC値、温度、湿度といった生産環境を把握する技術です。
観測したデータは、パソコンやスマホで手軽に確認できます。また、センサーで集めた環境情報に加えて、生産履歴も管理できる、総合的なサポートシステムも紹介されました。
酪農家が関心を寄せたのはNTTドコモの分娩・発情監視通報システム。牛の産道にセンサーを入れると、分娩の24時間前と一次破水時にメールで知らせてくれるので、分娩事故を防ぐことができます。
こうしたセンシングの技術は、離れていても現場の状況をリアルタイムで把握できるのが魅力。点在する圃場を見回ったり、牛舎に張り付いて分娩の兆候を見守ったりする負担が軽減されそうです。
ドローン
期待がふくらむドローンの活用
ドローンの活用も今後、急速に広がりそうです。たとえば農薬散布に適したエンルートのマルチローターは、万が一操縦スティックから手を放してしまっても落下しない安全タイプ。スピードを一定に保って薬剤を均一に散布することができます。
将来的には、スピードにかかわらず散布量を一定に保つ機能、薬剤がなくなった場所を記憶して補給後にそこまで戻る自動帰還機能の搭載も予定されています。
また、ドローンに特殊なカメラをつけて圃場を撮影し、色合いなどから生育状況を解析するシステムなども複数メーカーから登場。来場者からは「ドローン使用の法律整備に早急に取り組んでほしい」「屋外でデモンストレーションを見たい」などの意見が寄せられました。
ドローンの実演・操縦体験
会場の一角に設けられたドローンの実演エリアには大勢の観客が集まり、なかには操縦体験にトライする人も。近赤外線カメラを搭載して画像から植生分析を行うなど、さまざまな活用法が紹介されました。