農薬を正しく認識しましょう

農薬の種類と使用について

キーワード:農薬

ブームスプレーヤによる畑への薬液散布作業

そろそろ防除が本格化する季節です。ホクレンの肥料農薬部で、農薬の種類や効く仕組み、使い方の基本について聞きました。

この記事は2020年6月1日に掲載された情報となります。
ホクレン資材事業本部 肥料農薬部 技術普及課 主幹 今野 賢亮

ホクレン資材事業本部 肥料農薬部 技術普及課
主幹 今野 賢亮

農薬が果たす役割とは?

防除というと真っ先に思い浮かぶのは「農薬」ですが、農薬にはどんな種類があり、どう分類されているかご存じでしょうか。

「主な農薬は殺菌剤、殺虫剤、除草剤の三つですが、農林水産省ではこのほかに殺菌と殺虫の作用を併せ持った殺菌殺虫剤、殺鼠(さっそ)剤、植物成長調整剤およびその他と、全部で7種類に分類しています」

こう説明するのは肥料農薬部の今野主幹。現在、日本では約4300種類が農薬として登録されているそうです。

「農薬は収量や品質の確保に欠かせません。もしも、まったく防除しなかったとすると、米は3割減、麦やキャベツだと7割減、りんごだと99%もの減益率になるという報告もあります(図1)。また、農薬は作業時間の大幅な短縮にも寄与しています。かつては水田10aの草取りに手作業で50時間かかっていたのが、除草剤で2時間未満に減少、つまり25分の1に時間が短縮できたわけです」

品質や収量アップと省力化が実現できたのは、化学農薬での防除によるところが大きいのです。

無防除時の各作物の収穫割合
図1.無防除時の各作物の収穫割合(出荷金額ベース) 〜通常栽培を100とした比率(%)
※日本植物防疫協会の実証試験(1990〜2006年)の減益率より作成

農作物の病気を防ぐドクターとして薬を処方する

「江戸時代にも注油法という防除が行われていて、これは水田に鯨油などを注いで水面に皮膜をつくり、竹笹などで稲を叩いて害虫を落とし、油を付着させ窒息させる方法だったそうです。それでも被害を抑えるのは難しく、18世紀の享保の大飢饉(ききん)は、ウンカ類の害虫が大発生したのが原因といわれています」

昔から知恵を絞って虫害から守る工夫をしていたことと、今の農薬を使った防除はつながっています。

「農薬というだけで、なんとなく良くないイメージを持つ人がいますが、現在登録されているものは、実にさまざまな試験や審査を経て安全性が確認されたものです。濃度や散布量を守って正しく使えば、健全で安全な作物生産につながります」

私たちが体調の悪い時に薬を用いるように、農作物の病気を防いだり治療したりするのが農薬。ということは、生産者は農作物の体調管理を任されているドクターといえるかもしれません。

殺菌剤は予防が基本

植物に感染して悪さをする菌のうち8割を占めるのは糸状菌、いわゆるカビです。そのほか細菌とウイルスがそれぞれ1割程度です。なお、ウイルスはアブラムシなどの虫が媒介するので、殺菌剤ではなく殺虫剤が効果的です。

殺菌剤は大きく「保護殺菌剤」と「浸透性殺菌剤」に分けられます。保護殺菌剤は植物の表面を覆って病原菌の侵入を阻止しますが、すでに作物内に侵入している菌には効果がありません。方、浸透性殺菌剤は作物の体内に吸収され、体内に侵入した病原菌にも効果があります(図2)。

予防効果を発揮する薬剤と治療効果を発揮する薬剤
図2. 予防効果を発揮する薬剤と治療効果を発揮する薬剤

「殺菌剤で重要なのは予防。感染しても潜伏期間だと見た目は健全ですが、治療薬剤といえども過度に期待せず、発病前の防除が大切です(図3)。目に見えて症状が出た時は手遅れの場合が多いです」と今野さん。潜伏期間は病原菌で違いがあるそうです。

予防薬剤などの防除のタイミング
図3. 予防薬剤などの防除のタイミング

殺虫剤は必要性を考慮して

一方、殺虫剤では、食害する害虫に対して使う場合など、その加害状況を把握し、虫害で収量が減る経済的な損失と、殺虫剤散布のコストを踏まえて防除を行うことが大切です(図4)。

経済的損失と防除コスト
図4. 経済的損失と防除コスト 防除のコストと虫害による被害(経済的な損失)を踏まえた防除が大切。防除が必要な害虫の密度(要防除水準)が設定されているものもあります。「北海道農作物病害虫・雑草防除ガイド」を参考にしてください。

また殺虫剤は、害虫の神経系に作用するもの、エネルギー代謝を阻害するもの、脱皮や変態を妨げるもの、筋肉を収縮させて摂食行動を停止させるものなど、いくつかの系統に分かれています(図5)。圃場をこまめに見回り、状況に応じて散布を決めましょう。

殺虫剤の系統
図5. 殺虫剤の系統 殺虫剤の有効成分は、作用の異なるいくつかの系統に分かれています。農薬名が違っても同じ系統の薬を何回も続けて使うのは避けましょう。

「薬剤抵抗性」に注意

殺菌剤、殺虫剤共に「薬剤抵抗性」に注意しましょう。例えば殺菌剤の場合、菌の中には特定の薬剤に対して強い菌がわずかにいて、薬剤を散布しても生き残ります。それが増殖していくので、同じ薬剤を何回も散布すると、その薬剤に強い菌の割合が急激に増えて殺菌剤が効きづらくなります(図6)。

同じ薬剤の連用による抵抗性の出現
図6. 同じ薬剤の連用による抵抗性の出現 殺菌剤を使うと、その薬剤が効きにくい菌(耐性菌)がわずかにいて、生き残り増殖します。そのため同じ系統の殺菌剤を使い続けると、その薬剤に強い菌の割合が急激に増え、防除効果が低下していきます。

これは殺虫剤でも同じ。同じ薬剤を使い続けると、その薬剤が効きづらい個体群が発生します。

「こうした事態を防ぐには、系統の異なる薬剤をローテーションして使用することが大切(図7)」と今野さん。RACコードを参考にしましょう。

系統(RACコード)の異なる薬剤のローテーション
図7. 系統(RACコード)の異なる薬剤のローテーション 系統(RACコード)の異なる薬剤をローテーションして使用することが重要です。農薬の商品名が違っても、同じ系統の薬剤の場合もあります。

農薬の系統がひと目で分かる!農薬の作用機構分類【RAC(ラック)コード】

農薬の系統はRACコードで分かります。殺菌剤はFRAC、殺虫剤がIRAC、除草剤がHRACとしてそれぞれ分類されていて、コードが同じであれば同一系統の薬剤となります。農薬工業会ホームページの「商品名別RACコード検索表」で確認できるので、農薬のローテーションで迷ったときは確認を。

農薬の作用機構分類(RACコード)は農薬工業会のホームページで確認できます。
https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.html

殺菌剤と殺虫剤の使い方を紹介している、既刊のアグリポート も合わせてご覧ください。
バックナンバーを読む

VOL.5

VOL.7