この記事は2024年7月25日に掲載された情報となります。
ホクレン 酪農畜産事業本部
環境対策があらゆる産業で重要な課題となっています。消費者の環境に対する関心が高まる中、メタンガスや二酸化炭素排出など酪農・畜産においても環境問題への対応が注目されています。ここでは生乳の生産でどのくらい温室効果ガスが発生、あるいは吸収できるかを紹介します。
生乳1kg当たりの温室効果ガス発生量と吸収量を調べるため、北海道農政部「北海道生産技術体系(第5版)」を基に酪農経営体を設定し(図1右下)、ホクレンで独自試算を行いました。
今回の試算では、温室効果ガス発生量の多くを占めるのは、家畜排せつ物の堆肥化や、スラリーとして貯留した際に発生するメタンや一酸化二窒素、牛のゲップに含まれるメタンでした。
また、搾乳や給餌等の作業における機械や電気の使用によっても二酸化炭素が発生します。更に飼料の生産や配合飼料の製造においても二酸化炭素が発生しますが、図のように、自給(国産)飼料と比較し、海上輸送などもある輸入の場合は、より多くの二酸化炭素が発生します。
自給飼料の栽培や活用で環境負荷を軽減
生乳生産で温室効果ガスが発生する㆒方で、自給飼料の栽培での堆肥の投入や、飼料収穫後の茎葉や根が土に還り炭素が土壌に貯留(炭素貯留)されることで、温室効果ガスを吸収することができます。
生乳1㎏当たりの温室効果ガス発生量は?
温室効果ガスの種類により地球温暖化へ及ぼす影響の度合いが異なるため、環境省のガイドラインに沿って二酸化炭素に換算して試算した結果、生乳1kg当たりの発生量は1.53㎏となりました。
一方で、土壌への炭素貯留による吸収量を計算した結果、0.03㎏〜0.39㎏となり、発生量と吸収量を差し引くと、1.50㎏〜1.14㎏となりました(図1)。このように生乳生産による温室効果ガス発生量の試算結果を紹介しましたが、世の中では温室効果ガス低減に向けたさまざまな技術開発が行われています。
北海道では自給飼料基盤を活用した酪農経営が主体となっていますが、自給飼料の栽培・活用が輸入飼料の使用量低減、また土壌炭素貯留につながるため、環境負荷を軽減できる可能性があります。
持続的な酪農畜産経営に向けて
農林水産省によると日本の温室効果ガス総排出量は約11億5,000万t、うち農林水産分野はその4.4%(5,100万t)、更に酪農畜産分野に限れば総排出量の約1.2%(1,400万t)です(図2)。
今回の結果を用いて、農林水産省の排出量試算と同じ条件(ゲップと堆肥化のみ)で、経産牛1頭当たりの二酸化炭素排出量を計算すると、年間で約7t、その他を含めても約10〜13.5tとなります。決して大きい数字ではありませんが環境負荷軽減による持続的な酪農畜産経営に向け、温室効果ガスの削減に取り組んでいく必要があると考えています。
次号では、自給飼料を活用することでどの程度温室効果ガスを削減できるか解説します。