この記事は2024年2月1日に掲載された情報となります。
北海道指導農業士 椿 文子さん(JAむかわ理事)
Profile:リレハンメルおよび長野五輪にスピードスケート選手として出場。
カナダで7年暮らし、トリノおよびバンクーバー五輪では日本代表コーチとして活躍。
2012年に実家に就農、2021年にJAむかわの理事に就任。
ハウス16棟でトマトとレタスを夫と母、技能実習生1名で栽培。
農業の魅力を幅広く伝えるためにも積極的に情報発信をしています。
スピードスケートのオリンピック選手だった椿さん。「農業はやりたい職業ではなかった」といいますが、実家の農業を継いで2018年から指導農業士に。スケートコーチの経験を生かし、農業の面白さを伝えています。
就農したのは40代と遅いスタートだったそうですね。
椿:スピードスケートの選手から指導者になり、東日本大震災の時は栃木にいたんです。原発事故も気になり、子どもがいて家を空ける仕事では難しいと考え、実家に拠点を移して仕事を続けました。それでも子どもが寂しがり、仕事を辞め、農業をやろうと決めました。正直なところ、農業はやりたい職業ではなく、最後の手段という感覚でした。
3年目に経営移譲を受けたものの、あくまでメインは父。ところが、その後2年ほどで父が急に体調を崩し他界して、自分がやらざるを得なくなりました。当時は研修生2名を雇用しており、お給料を払えるか心配でしたが、1年を通して仕事を回して収穫できたことで、自分でもできたと自信になりました。
トマトハウス1棟当たりの収量が鵡川で一番と聞きましたが、収量確保のポイントは?
椿:父から教わったのは手間をかけること。トマトの定植も水糸を張って真っすぐに。圃場まわりの草もなるべく手で取って、除草剤はどうしても追いつかない時だけ。温度管理もきめ細かく。本当に必要なのかなと思う作業もありますが、手を抜くと収量を落としてしまいそうなので踏襲しています。
ただ昨年は猛暑でトマトが色付くのが早くて、一番忙しい時期は朝5時から夕方6時まで収穫と出荷に追われて、管理作業もままならなくて…。そういえば春には400株ほどの苗を鉢上げし直し、ある苗で工面するため、計画を変更。必要に迫られて、前倒しで定植用の苗床を作りました。過ぎたことをくよくよ考えてもしょうがないので、そこから何ができるかを考えるようにしています。
教える立場になって気付いたことはありますか?
椿:これまで農業大学校の生徒さんの受け入れや、研修農場で新規就農を目指すご夫婦の指導を担当しました。以前カナダでスケートの指導者の資格を取った時、教える側と教わる側のメンタルについても学んだので、その知識を生かせるのはうれしいですね。子育てしながら大変な思いをして取得した資格がムダじゃなかったと思えるようになって、農業がより面白くなりました。
農業は自分で考えてやりたいようにできるところがいいですよね。作物がいっぱい穫れて、ちゃんと収入につながるとやりがいを感じます。逆に忙しいのに値段が安い時はモチベーションが下がる。今は資材も高くなっているし商品価値を正当に評価してほしいと思っています。