この記事は2023年12月1日に掲載された情報となります。
美唄市水稲直播研究会
会長 加藤 禎行さん(ファームかとう)
耕作面積は32ha。水稲30haのうち12haが乾田直播。「えみまる」ほかを栽培。
35年前にいち早く水稲直播研究会が組織された美唄市。生産者はもちろん研究者や農機メーカーが連携し、地域ぐるみで直播栽培に取り組んできました。今では水稲面積の3割が直播に切り替わっています。
一度やめた直播を再開
加藤禎行さんが水稲直播に取り組んだのは1995年、25歳の時でした。美唄市では1988年から水稲直播研究会が組織されており、加藤さんも入会。栽培技術を教わりながら2haで挑戦しました。
しかし、新食糧法の施行で米価が下落したことから畑作を増やし、直播を辞めた時期もありました。
その後、近隣の離農により耕作面積が17haから30haに増えたこと、基盤整備事業で大区画の圃場ができたことから直播を再開しました。
「湛水直播も数年試しましたが、時期的に移植の代掻きと重なってしまう」と、作業体系の面から乾田直播を選んでいます。
ポイントは圃場づくり
加藤さんがポイントに挙げるのは「乾土」と「均平」。サブソイラーで暗きょにつながる水みちをつけるほか、荒耕起後、ケンブリッジローラーによる鎮圧とレーザーレベラーによる均平で「早く乾くと同時に水漏れしない田んぼ」をつくります。
「乾かすと土に空気が入り、ふかふかな播種床ができる」からです。
緩効性肥料を全層に施し、播種には側条施肥付きグレンドリル(写真2)を使用します。移植よりも気を遣うのは除草剤のタイミング。「稲の芽が出る前に草が生えるので、圃場をよく観察していないと雑草に占拠されてしまう」と言います。
出芽後の水管理も大切。水が深いと種籾が水没し腐ったり、稲が細く伸び過ぎたりするためです。
移植に比べて種籾は5倍必要で、雑草防除も1回多くなりますが、それでも育苗の手間がなく、大型機械で作業できるのは大きなメリット。加藤さんは防除にドローンを活用して、更なる省力化も図っています。
人手不足が進めば直播をやらざるを得なくなる
いま美唄市では水稲直播の面積が1000haに達し、水稲全体の3割を超えています。
ここまで普及するには、地域ぐるみの努力の積み重ねがありました。地元の農機メーカー「ピポリー技研製作所」の尾嶋勝さんはイタリア視察で見た均平機をヒントに播種機を独自に開発するなど機械の面からサポート。
旧・北海道農業試験場美唄試験地の研究者・粟崎弘利さんは、朝の4時から水稲直播研究会の会員の田んぼを回り、水の深さを調整して歩くなど、熱心に生産者を指導。乾田直播向けの緩効性肥料の開発にも取り組みました。
「人手不足が進むこれからは誰もが直播をやらざるを得なくなる」と言う加藤さん。「新たに取り組む人は地域の研究会や勉強会に参加して、みんなのやり方を見比べながら学んでほしい」と話します。
「もっと手を抜く方法があるんじゃないかとか、自己流を探さないことが大事かな(笑)」
乾田直播は播種してから芽が出るまで個人差が大きく、移植のようにきっちり数値化された作業体系はまだありません。それでも、これまで培ってきた栽培のノウハウを共有し普及させていくため、農機メーカーなどへの情報提供を続けています。
「直播を始めたころ先輩には、手間が掛からないからって、収量が少なくて当たり前と思ったらダメだ、と言われました。直播でも移植と同じぐらいとらないとね」
これまで飼料用米多収日本一(2021年度)、北海道優良米生産出荷共励会の直播栽培部門で最優秀賞(2022年度)を受賞している加藤さん。「品種の選定と施肥設計を間違わなければ、移植と同様に収穫できるようになりますよ」と、安定多収を実現しています。