この記事は2023年8月1日に掲載された情報となります。
農研機構北海道農業研究センター
寒地畑作研究領域 スマート畑作グループ
研究員 朱里 勇治さん
Profile:千葉大学大学院理学研究科修士課程修了。食品メーカーの営業部門、マーケティング部門を経て、2021年から現職。31歳。茨城県出身。
POINT
❶ 防除畦の一部を空けることで土塊発生量が減少し、空けた畦の種いも使用量が減ります。
❷畦数は減りますが、圃場全体の収量は変わりません。
❸投下労働時間は収穫時で10%、生産全体では6%減少します。
馬鈴しょ栽培では収穫に多くの時間がかかり、収穫時期も小麦の播種や準備と重なるため、作業競合が生じやすくなっています。そして、収穫機上に上がってくる土塊や礫、緑化いもなどは、選別・除去に多くの人手を要し、収穫作業速度低下の要因となることから改善が求められています。
防除畦の一部を空けることで、収穫時に発生する土塊が減り、使用する種いもの減量にもつながることを紹介します。
防除畦では土塊の発生が多い
馬鈴しょ生産では、トラクターに直装、または牽引式や自走式の防除機により、栽培期間中に何度か農薬散布が行われますが、その度に車輪が同じ畦をまたいで作業します。
2018〜2020年度に収穫作業の調査を行ったところ、馬鈴しょ収穫時の土塊の発生量はトラクターや防除機の車輪が通過する防除畦で明らかに多いことが確認されました。
そこで、防除畦の一部に馬鈴しょを植えず、トラクター、防除機の車輪が従来畦の頂部にあたる地点を通る改良防除畦を提案しました(写真1、図1)。
防除畦の改良で、収量を維持しつつ土塊発生量が減少
2020〜2022年度に「男爵薯」、「トヨシロ」、「さやか」、「きたひめ」、「とうや」の5品種を栽培し、北農研および生産者圃場で改良防除畦(図1の③、④)の効果(土塊等発生量、収量性、作業速度)を調査しました。改良した防除畦の土塊発生量は、作業機の影響を受けない通常畦と差はなく、作業機の影響を受ける慣行防除畦(図1の②)より減少しました(図2)。
また、慣行防除畦の収量が、茎の損傷などで通常畦に比べ低下したのに対し、改良した防除畦は茎の損傷が少なく、上いも1個重と規格内いも数が増加することが多くなりました。通常畦に比べ、慣行防除畦は減収しますが、改良した防除畦では多収となるので、畦数が減っても圃場全体の収量は変わらないと考えられます(表1)。
投下労働時間は収穫時で10%、生産全体では6%減少
生産者圃場の収穫作業では、防除畦の改良で土塊の多発地点が減ったため、慣行の防除畦に比べ若干速い速度で収穫できました。作業速度向上と収穫畦数減少で収穫時の投下労働時間は10%減ると試算されました。
現地における作業体系の変更点は表2のとおりで、投下労働時間は慣行を11.1時間/10aとした場合、変更後は約6%少ない10.4時間/10aと想定されます。
このように、防除畦の改良は、従来の機械体系で実施可能であり、畦数が減ることで種いもの使用量を減らしつつ慣行栽培と同等の収量が得られ、収穫期の作業時間短縮により作業競合が起きにくくなると考えられます。
なお、収穫作業において土塊の減量効果を生産者が明確に実感できる圃場は、礫が少ない圃場に限られます。礫の多い圃場は除礫等の対策を必要に応じて行います。