2019年に秋播き小麦「きたほなみ」で1,003kg(10a当たり粗原収量)を収穫した岩見沢市の大槻賢紀さん。土壌分析を活用した小麦多収栽培のヒントを教えてもらいました。
この記事は2022年2月1日に掲載された情報となります。
岩見沢市 大槻 賢紀さん
Profile:経営面積28ha。水稲とハウスでの花き栽培(ひまわり)を固定化し、残りの圃場で小麦、大豆、なたねを輪作しています。秋播き小麦は「きたほなみ」、「ゆめちから」、「キタノカオリ」、春播き小麦は「はるきらり」と多品種を栽培中。2019年指導農業士認定。
玉ねぎ農家の小麦は刈り応えが違う?
岩見沢市栗沢町の大槻賢紀さんは水田と花きのハウスを固定化し、残りの圃場は大豆→春播き小麦→秋播き小麦(ゆめちから)→なたね→秋播き小麦(きたほなみ、もしくはキタノカオリ)を輪作しています。土壌分析を行うのは年1回。雪が解けた春先に圃場や品種ごとの土を採取して、特にリン酸、カリ、pHの項目を確認します。
「私は受託で小麦の刈り取りをしているのですが、玉ねぎ農家の小麦は収穫時の刈り応えがすごいんです。コンバインの上から見ても圃場の土が見えないくらいで、機械もウーンとうなるほど。玉ねぎはリン酸を豊富に入れるので、そういう土にすれば小麦が採れるのでは、と安易に考えました」
大槻さんは多収の農家に栽培方法を聞いて回り独自に研究。次第にJAいわみざわの「豆麦輪作研究会」の中でもトップクラスの収量を維持できるようになり、2019年に、きたほなみの10a当たりの粗原収量(製品になる前の収量)が1000kgを突破しました。
施肥は標準より「ちょい乗せ」で
大槻さんは麦稈などの作物残渣(ざんさ)をチョッパーで細断し、発酵ペレット鶏糞を10a当たり100㎏散布してロータリーなどですき込む土づくりを続けています。
基肥のリン酸とカリについては土壌分析で提示される施肥量よりやや多めの「ちょい乗せ」を意識。「肥料をその年に使うというより、来年大豆を作る時にも役立つように長い目で考えている」と言います。
岩見沢は雪が多いため融雪材(防散融雪炭カル)を10a当たり60㎏散布し雪解けを促進しているのも特徴。
「pHの目安は6.0。分析結果が低ければ炭カルで矯正します。例年は100㎏入れていましたが、最近はpHが上昇傾向なので炭カルを80〜60㎏くらいに減らしています」
以前、追肥は3回でしたが、今は幼穂形成期と止葉期の2回。止葉期の追肥の窒素は粒の充実度を上げる目的で尿素を選択しています。「硫安から中性の尿素に変えたおかげかどうか分かりませんが、pHが上がってきました」と大槻さん。土壌分析の数値の推移で、土の変化を確認しています。
土壌分析以外も丁寧にやる
大槻さんは昨年、新しく借りることになった5haの土地にも小麦を作付けしました。
「僕の恩師のような方の土地ですが、まず土壌分析の結果を確認しました。また、土地の特性から暗きょ排水がなく水はけが悪いと聞いたので、カットドレーンを入れてみたんです」
自動操舵トラクターを駆使して5m間隔でカットドレーンを施工(写真1)。排水対策を徹底してから播種しました。
「途中、縞萎縮病が出て心配しましたが、結局、製品重量で10a当たり900㎏を超える収量になりました。農家を引退した恩師も『こんなの見たことねえぞ』と褒めてくれました」
気を付けているのは、土地や作物の状態を常に確認し、タイミングにあった作業を怠らずにやること。特別なことではなく「一つひとつを丁寧にやっているだけ」と言う大槻さん。播種量のコントロールにも時間をかけています。
「その年播種する種子の千粒重を確認したうえで播種機から出る量を何度も調整します。小麦づくりの7〜8割は、圃場づくりから発芽までの間に決まってしまうと思うんです」
大槻さんの域に達するのは難しくても、まずは土壌分析から始めてみると、工夫するポイントが見えてくるかもしれません。
大槻さんのこだわりはココ!
リン酸とカリは「ちょい乗せ」に
毎年春に土壌分析を実施。分析結果には基準収量のための施肥量が示されますが、大槻さんはリン酸(P)・カリ(K)を標準量よりも「ちょい乗せ」で施肥しています。
pHは6.0前後に調整
融雪を早めるため「防散融雪炭カル」を10a当たり60kg散布。雪解けを促進します。pHが低い時は基肥の炭カルで矯正。ただしpHを上げすぎると土壌養分の溶出が悪くなり生理障害を引き起こしやすくなるので要注意。
残渣のすき込みと鶏糞の投入
本当は堆肥を入れたいが難しいので、「せめて鶏糞を」と、扱いやすいペレット発酵鶏糞を10a当たり100kg投入。ストローチョッパーで作物残渣を細断し畑一面に広げてからロータリーやパワーハローなどで鶏糞と一緒にすき込みます。