この記事は2017年4月1日に掲載された情報となります。
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構
花・野菜技術センター
研究部 技術研修グループ 柳田 大介さん
Profile:帯広畜産大学畜産学部卒業。平成3年遺伝資源センター、平成7年中央農試、平成13年北見農試、平成27年より花・野菜技術センター。北見農試在籍の14年間、主にたまねぎ品種育成、栽培試験へ取り組む。現在は、新規就農者への野菜に関する各種研修を軸に、道総研で開発された技術 の支援活動をしている。
POINT!
排水不良圃場に効果が期待できる、たまねぎ高畦移植栽培技術を紹介します。
1.はじめに
多湿によって起きる、たまねぎの外観品質低下を回避する技術として、道総研では、たまねぎ高畦移植栽培技術を開発し、排水不良圃場を中心に普及が進められています(平成25年指導参考事項)。
花・野菜技術センターでは、たまねぎ高畦栽培技術の普及を支援するため、石狩農業改良普及センター、札幌市農業支援センターと協力し、「地域の食文化支援のためのたまねぎブランド品種『札幌黄』安定生産に向けた技術実証」(平成28~29年度)を実施しています。今回は、平成28年度の試験結果概要を紹介します。
2.高畦移植栽培に期待される効果
① 株への浸水回避
局所的な降雨に当たっても、高畦では畦と畦の間の溝部分に排水されることにより、株が直接浸水するのを避けることができます。
② 安定収量の確保
高畦にすることで株の根域が広がり、一球重は増加します。栽植本数を平畦対比90%程度に確保できれば収量性の向上が期待できます。
3.平成28年度たまねぎブランド品種「札幌黄」高畦移植栽培実証試験結果
① 高畦成形・苗移植
アッパーローターによる高畦成形速度は1.62㎞/h、10a当たりの作業時間は約15分程度かかりました。高畦の苗植え付け精度は平畦と同程度でした。また、株間を平畦と同程度とした今回の高畦栽植本数は平畦対比86%でした(写真1、図1)。
② 根域拡大、収量性
高畦は平畦よりもたまねぎの根が5~10㎝地中深くに伸長していて、根量が多く、根域も広がっていました(写真2)。
また、高畦の平均一球重は平畦より大きく、規格内・総収量とも優り、L大サイズ以上の比率も高まっていました(図2)。
③ その他
湿害が原因で発生する黒しみ症状は、平畦より高畦でやや少ない傾向にありました。
4.札幌市の実証試験における高畦移植栽培の課題
高畦移植栽培の導入にあたっては、次のような課題があり、次年度も検討していきます。
① 移植
高畦成形後、移植機の調整不足によって苗移植時に鎮圧が足りず、苗の活着不良や苗の生育遅れが生じるケースが見られました。
② 根切り・収穫
根切り処理時に畦間へ球が落下してしまい、作業効率が悪くなるケースが見られました。
5.高畦移植栽培技術の普及に向けて
通常の平畦でも多収である圃場へ本技術を導入した場合、2Lサイズ以上の大玉割合が極端に高まる可能性があります。土壌が多湿になりやすく収量性が上がらない、湿害により球品質を保てない等の圃場を主に、本技術を導入することで、地域全体のたまねぎの生産性と球品質の底上げをはかることが期待できます。