この記事は2016年10月1日に掲載された情報となります。
北海道指導農業士協会
会長 吉村 俊子さん
北海道指導農業士協会の会長を務める美唄市の吉村俊子さん。
修学旅行生を積極的に受け入れ、都市と農村の交流に取り組んでいます。
「若い人たちに、農村の文化を知ってほしい」
Profile:1957(昭和32)年、美唄市生まれ。1980年に吉村忠さんと結婚。美唄グリーン・ツーリズム研究会に所属して2000年から農業体験の受け入れをスタート。2011年には農家民泊の認可も取得。JAみねのぶ女性部の部長のほか、昨年から北海道指導農業士協会の会長を務めている。
都市と農村の距離を縮めるには
北海道指導農業士協会の会長を務める吉村俊子さんは、美唄グリーン・ツーリズム研究会に所属し、修学旅行生の農業体験を積極的に受け入れています。いつもは関西方面の子どもたちが多いそうですが、取材に伺った日は岩見沢農業高校の女子生徒3名が1泊2日で宿泊学習の最中でした。
この日は気温30℃を超える真夏日。田んぼで稲の受粉を観察したり、鍬を手に1町5反の大豆畑で草取りをしたりして、たっぷり汗をかきました。
「アニメのような田園風景に感激した」、「学校でも農作業の実習があるけど、こんなに広い畑は初めて」など、生徒たちの感想もさまざま。吉村さんは「都市と農村がどんどん離れてしまっているから、こうして農業の魅力を伝える機会は貴重」と話します。
「田植えや稲刈りの体験が人気ですけど、いまは機械を使うから実際の農業とは違うんですよね。稲刈りの後、束に縛ってはさがけにする作業なんかは、もう青年部の人だってわからない。それでも子どもたちに昔ながらの手作業を体験してもらうのは、農村の文化を伝えていきたいと思うからです」
だから、田んぼで小さな生きものを探してもらうなど、農作業以外の自然体験も大切にしているそう。
「ドジョウやヤゴがいるし、畦にはカエルもいる。田んぼはいろんな命を育くんでいるのよね。稲わらやもみ殻も堆肥として土づくりに役立つでしょう。農業は単に食べものをつくるだけじゃないということを、子どもたちに実感してもらえたらいいですね」
地域にしっかりと根を下ろして
季節や天気によって農業体験のプログラムはさまざまで、ため池や用水路に案内して水の大切さを説明することもあれば、納屋でスゲを編んでしめ縄をつくることもあるそう。子どもたちはきっと田舎のおばあちゃんの家に遊びに来たような感覚で、農業や農村について理解を深めることでしょう。
「人に伝えるには、まず自分たちが地域のことをちゃんと知らなきゃならないから、美唄グリーン・ツーリズム研究会の仲間で、古い神社や石狩川の渡し船を巡ったり、古老に昔話を聞いたりするツアーを開催したことがあるんです。そういう意味では、グリーン・ツーリズムは、自分たちが地域にがっちりと根を下ろすための活動でもあるんですよね」と吉村さん。
農作業を体験してもらうだけではなく、開拓の歴史や地域の名物などについても話すようにし、反対に、遠方から来た子には「あなたのまちの名物や名所を教えて」と尋ねるようにしているそう。そうした情報交換こそが「遠くから来てくれた人と出会い、交流する意味」だと考えています。
空知エリアでは今、美唄グリーン・ツーリズム研究会を含む広域ネットワーク「そらちDEい〜ね」が組織され、大人数の修学旅行生の受け入れがスムーズに行われています。しかし、こういった窓口があるのは、空知のほか十勝や上川などまだ一部だけ。吉村さんは新幹線が開業した道南をはじめ、全道にグリーン・ツーリズムの輪が広がってほしいと願っています。