この記事は2025年10月1日に掲載された情報となります。
ホクレン 経営企画部 事業開発課
課長代理 柴田 純宏
北海道産農畜産物の輸出をホクレンが試験的に始めたのは1987(昭和62)年。1996(平成8)年に株式会社ホクレン通商を設立し、30年近くかけて少しずつ輸出先を増やし、品目も拡大してきました。
POINT
●東アジア、東南アジアでは北海道ブランドが認知されている。
●輸出には国ごとに多様な規制とルールが存在する。
●持続可能な北海道農業と食料安保の観点からも、着実に輸出に取り組む。
輸出先はアジアが中心
—輸出している北海道の農畜産物はどんなものがありますか?
現在、牛乳・乳製品・牛肉・豚肉・米・青果物・加工食品などを北海道から輸出しています。
コロナ禍には輸出実績が横ばいで推移していましたが、ここ数年は順調に伸び、2024年度は過去最高額となりました(図1)。今年度の4〜6月も前年同月比で125%と順調に伸びています。

—主な輸出先はどこですか?
台湾、香港、シンガポールなど東アジアを中心に、東南アジアや北米、欧州へも輸出しています(図2)。

「北海道」がブランドに
—輸出が増えている理由は?
ホクレンでは2022年から3年間、産地整備・販路構築・需要拡大・行政連携の四つを重点項目に、海外で販売するために関係する人や仕組みをつなげ、広げる取り組みをしました。
また、牛肉や牛乳・乳製品を輸出する関連企業の協力体制づくり・農水省GFP事業※・北海道農政部との連携などにより、輸出品目の供給体制を整備してきたことが功を奏したと考えています。
※農林水産省が推進する日本の農林水産物・食品の輸出プロジェクト。
—北海道の農畜産物の海外での評価は?
東アジアや東南アジアでは、「北海道=高品質でおいしい食材の宝庫」として広く認知されています。
㆒方、北米や欧州では北海道を知っている消費者は多くありません。現地でニーズが高いのは「北海道産(日本産)でなければならないもの」です。
和牛やお米、長いも、さつまいもなどは他国産との違いが明確で、特有の味や品質が高く評価され、㆒定層から支持されていると考えています。

輸出に向けた課題の数々
—輸出にあたっての主な課題は何ですか?
各国の規制をクリアすることと、現地までの輸送方法です。
輸出先の国によっては加工工場の登録や、と畜場の認可が必要な場合もあります。
他にも、原産地証明書などの書類提出、残留農薬の基準、包装資材の規制など、全ての条件を満たす必要があります。
輸送方法は航空便(常温・冷蔵)と船便(常温・冷蔵・冷凍)の大きく二つ。船便は現地到着までに2〜3週間かかるため、鮮度がすぐに失われるような品目には適していませんが、航空便よりも安価で、㆒度に大量の輸送が可能です。
輸送に使うパレットは、国や地域によってサイズが異なるため、積み替え作業が必要な場合もあります。
—輸出にはどんな費用がかかりますか?
輸出特有の費用としては、輸送費、関税、為替の三つが現地販売価格に影響します。
輸送費と為替は世界情勢によって常に変動し、コロナ禍で海運が大きく混乱した際には、海上運賃が平時の3〜4倍に高騰したこともありました。
為替についても、直近のドル円相場は146円前後で推移しています。2021年には110円前後だったことを考えると、大きな変動要素の㆒つと言えます。
今後、米国の相互関税の影響を受けて世界の物の流れや、船のルートが変わったりすると、海上運賃が更に高くなる心配もあります。

輸出は重要な販路の一つ
—今後の輸出に向けて、どのような取り組みをしていますか?
今年7月には、北海道からフィリピンへ牛肉を輸出するための工場認可を取得し新規販路開拓に取り組んでいます。
その他にも、「欧州への北海道米の販路開拓」「マレーシアやフィリピンでの玉ねぎの需要調査」「タイやカナダへの、さつまいもの販路拡大」「ベトナムやカンボジアへのLL牛乳の販路拡大」など、品目の特性や各国の状況を考慮しながら、北海道産品の輸出に取り組んでいます。



—リスクがあるにもかかわらず、なぜ輸出に取り組むのですか?
今後、日本国内では人口減少や高齢化が進み、市場の縮小が予想されています。一方で、世界の人口は増加し、経済成長も続いているため、輸出は重要な販路の一つです。
もちろん、私たちは国内市場を第㆒に考えていますが、北海道農業の持続可能性を考えると、輸出は欠かせない取り組みの㆒つです。
昨年10月には食料・農業・農村基本法が改正され、国は輸出を「食料安全保障上の食料供給能力を維持」する方策の㆒つと定めています。
これまでの取り組みを継続しつつ、輸出事業を取り巻く環境変化に対応し、持続可能な北海道農業と国内の食料安全保障に貢献できるよう、着実に海外販路を拡大していきます。
また、海外での商標登録やPL保険(生産物賠償責任保険)への加入など、予期せぬトラブルを防ぐための対策も進めています。
今後も、長期的に北海道農業に貢献できるよう努力していきます。