北海道における高密度播種短期育苗の適用性と早生品種「えみまる」の導入効果

米づくりの低コスト省力化技術として普及が始まっている高密度播種短期育苗。北海道で導入するにあたり、その適用性と早生品種「えみまる」の導入効果に関する成果が2022年1月に発表されました。そのポイントをご紹介します。

※本成果はJA北海道中央会受託プロジェクト研究「多様なニーズに対応する米品種改良並びに米栽培技術早期確立事業(第4期)」によるものです。
この記事は2022年4月1日に掲載された情報となります。

道総研 中央農業試験場 水田農業部 水田農業グループ 研究職員 小杉 重順

道総研 中央農業試験場 水田農業部
水田農業グループ 研究職員 小杉 重順

Profile:1991年新潟県生まれ。大学進学を機に北海道に転居。2019年より現職。2020年、粘土鉱物へのリン酸吸着モデリングに関する研究により博士(農学)を取得。専門は水稲栽培と土壌科学。

北海道の目標数値が明らかに

高密度播種短期育苗(以下、高密短)は育苗箱への播種量を増やし、短い育苗日数で移植することで育苗箱数や苗運搬時間、育苗資材費を削減する低コスト・省力化技術のつです。現在、北海道での高密短導入面積は約900ha(農業改良普及センター調べ)。各生産者による試行錯誤が続く中、この度、高密短の適用性と「えみまる」導入効果に関する試験結果がまとまりました。北海道で高密短に取り組む際に基準となる、主な目標数値は次の通りです(表1)。

●播種量 250〜300g/箱
●育苗日数 20日前後が目安
●草丈 10〜12cm
●葉齢 1.8枚以上

高密短は育苗日数が少なくとも播種量を増やすことで根張りがしっかりした強度の高いマットが出来上がります。また、育苗日数が短いことを考慮して播種時期の調整も可能になります。

高密短における目標とする苗形質および適正管理方法
表1.高密短における目標とする苗形質および適正管理方法

適正な育苗管理のために

高密短のポイントは、適期移植も大切ですが、田植え後の初期生育不良が起きないよう適正な育苗管理をすること。移植後の管理は従来の米づくりと同じです(写真1)。

適正な育苗や移植で、出穂期は5日程度遅れるものの、慣行栽培の中苗とも同等の収量が見込める(「ななつぼし」での比較)。
写真1.適正な育苗や移植で、出穂期は5日程度遅れるものの、慣行栽培の中苗とも同等の収量が見込める(「ななつぼし」での比較)。

窒素の追肥と伸び過ぎ注意

高密短の育苗箱内では播種量が増えたことで生育の競合が起こります。苗が葉の枚数を増やすよりも上へ上へと伸びていく徒長が起こりやすく、土中の養分を取り合うことで各苗の窒素含有率が足りなくなるため、窒素の追肥が必要になります。

更に留意したい点は温度管理です。苗が小さいからと言って温め過ぎると徒長してしまうので、生育状況を見ながらハウスに冷気を入れるなど伸び過ぎを防ぎましょう(写真2)。移植時の苗の目安として図1の目標値「草丈10〜12cm」や「葉齢1.8枚以上」などを参照してください。

高密短苗(「ななつぼし」)の育苗管理法比較 2021年5月25日
写真2.高密短苗(「ななつぼし」)の育苗管理法比較 2021年5月25日

田植え直後は「水位の調整」も

移植は、各メーカーが展開している高密短専用の移植機で行います。育苗箱から小さく掻き取るための適正な掻き取り本数の設定や均平な圃場づくり、小さい苗の水没を防ぐ浅植えが大切です。寒冷地の北海道では田植え直後に急激に冷え込み、霜が降りる年も少なくありません。そういう時は水を深く張って保温を優先。それが過ぎたらまた浅くするなど、状況に応じた「水位の調整」が必要です。

早生品種「えみまる」を推奨

本州で開発された「密苗®」など葉齢の小さい苗を北海道で移植すると、生育遅延によるリスクの克服が課題となります。そこで直播栽培向けの早生品種「えみまる」に着目しました。「ななつぼし」よりも収量性がやや劣る傾向にありますが、生育が非常に早い「えみまる」なら初めての高密短も安全に導入できます。導入リスクを表した全道マップでも、高密短の「えみまる」と中苗の「ななつぼし」は栽培可能地域がほぼ同じであることが示されています(図1)。

※『密苗』はヤンマーホールディングス株式会社の登録商標です。
水稲発育モデルと気象データによる導入リスク推定
図1.水稲発育モデルと気象データによる導入リスク推定 ※赤いエリアは「リスク低」。 ※中苗「ななつぼし」と高密短苗「えみまる」の栽培可能地域はほぼ同等。

箱使用量5割減 移植時間も2割減

試験の結果、高密短の育苗箱使用量は乾籾播種量259g/箱で約15箱、300g/箱で約11箱となり、中苗(30箱)対比で5割以上削減。播種作業やハウスへの箱並べ作業、運搬車への苗積み込み作業も6割減の成果が得られ、移植作業時間も2割削減されています。

高密短は、従来から移植栽培を続ける生産者にとって導入のハードルが低い点も魅力です。今回の試験結果は、北海道での導入を促進するための第歩。基本技術や目標数値をぜひご活用ください。