この記事は2024年4月1日に掲載された情報となります。
効率的施肥による肥料コスト低減などで注目される「可変施肥」。ホクレン訓子府実証農場農産技術課の野坂係長に可変施肥のポイントと農場での実証状況を聞きました。
ホクレン訓子府
実証農場農産技術課 係長 野坂 俊輔
可変施肥ってどんなもの?
可変施肥は、リモートセンシング(センサやドローン、衛星などを利用して作物の生育状況を観測する技術)によって得られた情報をもとに、作物の生育状況や圃場のムラに合わせて施肥量を変えることで、生育のばらつきを少なくする技術です。この技術で期待される効果は大きく次の二つ。
①生育に応じた施肥が可能
②生育の均一化
衛星サービスを利用した可変施肥に必要な機材の初期投資は500〜600万円程度となります※。
※GNSSガイダンスシステムと自動操舵補助装置導入済みの場合
「センサベース」と「マップベース」の
2つの形式があります
可変施肥の方法は、大きく「センサベース」と「マップベース」の二つに分けられます(図1)。
①センサベース
トラクターにセンサを搭載して圃場を走らせ、計測値に応じて施肥する技術。作物の近くから確認できるので、天候の影響を受けづらく、夜間でも使用可能なため、施肥作業時間の選択肢が広がります。
なお、施肥作業前に生育状況観察のため、一度、空走りが必要です。また、センサが高額であり導入コストがかかります。
②マップベース
衛星やドローンの情報をもとに、あらかじめマップを作成して施肥を制御するもので、「スペースアグリ株式会社」の衛星サービスや栽培管理支援システム「xarvio® FIELD MANAGER(全農)」などが使われています。
広域センシングが可能で、他のセンシング技術と比べると安価です。パソコンの操作に慣れていれば、施肥設計やマップ作りなどの作業時間も短いのが特徴です。馬鈴しょやてん菜などの基肥の場合は、冬期間にある程度の施肥計画が立てられます。
デメリットとしては、雲の影響を受けるので天候によってはリアルタイムでの衛星画像の入手が困難な場合があります。
訓子府実証農場では
どのように実践しているの?
ホクレン訓子府実証農場では2018年から、衛星より得られるNDVI※画像を利用したマップベースでの可変施肥を行っています(図2)。
メリットとしては、過年度の生育データを蓄積でき、作付けする際に振り返りができること。また、最近では、土壌腐植含量(有機物など)を推測したデータを取得できるサービスもあることから、2024年の作付けから基肥への利用も検討しています。
そして、可変施肥対応のブロードキャスターを有効に活用するため、小麦だけでなく、てん菜や馬鈴しょに対する可変施肥にも取り組んでいます。
秋播き小麦は6年目、直播てん菜が3年目、馬鈴しょは昨年度からスタートしています。秋播き小麦は追肥、てん菜と馬鈴しょは基肥でそれぞれ実施していますが、慣行の定量施肥と比べ、施肥量を削減しつつ安定的に収量を確保できています。
※施肥マップの元になるNDVI
衛星から得られるNDVI(正規化植生指数)は、作物の植生の分布状況や活性度を示す数値のことです。注意しなければならないのが、1圃場内の相対値であるため、NDVIを指標とした施肥量が定められていないこと。ホクレン訓子府実証農場では、圃場で茎数を数えるなど、生育を観察したうえで、5段階の真ん中となる基準施肥量を決めています。
これからどんなふうに
普及するの?
ホクレン訓子府実証農場があるオホーツク管内には、他の地域と比べ多くの可変施肥対応のブロードキャスターが導入されていますが、技術の浸透状況には地域差があるのが現状です。
関係機関を通して聞き取りをしたところ、「施肥マップの作成や施肥機への読み込みの仕方が分からない」、「施肥量の設定の仕方が分からない」などの課題が上がりました。
当農場では、昨年11月に可変施肥の講習会(写真1)を実施しましたが、今後は各地域における技術の普及進度に沿った、よりきめ細やかな対応が必要と考えています。
可変施肥は、導入後1〜2年ですぐに結果が出るものではなく、圃場ごとの可変施肥量や生産実績の蓄積が必要です。
それに自らの目と経験を加え、ノウハウを積み重ねていくことが大切です。こうすることで5年後、10年後に、よりベストな施肥量を設定できるようになることが期待できます。
営農資材の高騰が続く中、将来に向けた長いスパンで考えて、トライいただきたいと思います。
当農場もこれまで蓄積した事例をもとに情報発信することで、可変施肥技術の普及を後押ししていきます。