この記事は2019年12月1日に掲載された情報となります。
株間を大きくあけて苗を植える「疎植栽培」。新たな設備投資をすることなく挑戦できるのが魅力です。農協の米作研究会で10年前から疎植栽培に取り組んできた長沼町の柴田さんに省力効果をお聞きしました。
取材日 2019年9月10日
長沼町 柴田 佳夫さん
「株間を広くとるだけで、少ない苗でも、慣行栽培と同等の収穫が見込める疎植栽培には可能性があります」
Profile:経営面積23haのうち、水稲6.7ha、ほかに秋播き小麦、ブロッコリー、白菜を作付け。2016年よりJAながぬま専務理事。1961年生まれ。
田んぼの面積は減らしたくない
奥さんと息子さんと3人で営農している柴田佳夫さん。6.7haの水田のうち、5.5haを「ゆめぴりか」と「ななつぼし」の慣行栽培に、残り1.2haを「そらゆき」の疎植栽培にしています。
「うちの収益の柱はブロッコリーで、3月下旬から毎週種播きをして、4月下旬から定植します。それに並行して水稲の育苗ハウスをつくって苗を管理し、田起こし、代掻き、田植え。更に小麦の管理や大豆の種播き。春先は特に家内に大きな労働負担がかかってしまいます」
なんとか米づくりの省力化はできないかと乾田直播に取り組んだこともありましたが、風の強い長沼町は田んぼの水温が上昇しづらく、収量も品質も安定しませんでした。
家族だけで作業を担う場合、育苗ハウスは4棟、成苗ポットは3千枚が限界。でも田んぼの面積は減らしたくない。そこで挑戦したのが、通常14㎝の株間を26㎝に広げて移植する疎植栽培です。
「田植えの直後はスカスカした印象ですが、『そらゆき』は分けつが旺盛で、1株40本以上になることも。根張りが良くなり、1穂当たりの籾数も増えるため、うちの場合は慣行栽培と同等に収量を確保できています(写真1)」
そのぶん登熟に時間がかかるので、「ほかの品種より早く田植えをして、最後に収穫するのがポイント」だそう。「昨年はどの品種も不作で、疎植だと更に収量が落ちてしまうのではと警戒したんですが、結果は慣行栽培とほぼ同等。冷害でも大きなダメージにならない」と分かりました。
業務用途の「そらゆき」はニーズともマッチ
少ない苗で広い面積に作付けする疎植栽培。柴田さんが試算したところ、育苗にかかる資材のコストはもちろん、育苗から移植までの労働時間も慣行栽培より4割以上削減したそうです(図1)。
そして、柴田さんが考える疎植の最大のメリットは、新たな設備投資が不要なこと。成苗ポットのユーザーなら移植機のギヤ交換だけで、誰もが手軽に取り組めます(写真2)。
一方、デメリットはタンパク値が多少上がってしまうこと。「そういう意味でも良食味米ではなく、タンパク仕分けをしていない業務用途の『そらゆき』の栽培が向いている」と柴田さん。
長沼町では今年35軒220haで疎植栽培が行われましたが、更に広まってほしいと考えています。農協で組合員向けの技術研修会を開き、「健苗の早期移植」「側条施肥の増肥」「初期茎数を確保する水管理」など、これまで蓄積してきた成功のポイントを広く紹介しているのもそのためです。
「今後、道産の業務用米のニーズは高まるはず。『そらゆき』の疎植は安定供給に貢献できます。そして、長沼の農業においても、水稲を輪作品目の一つとして考える田畑輪換を振興したい。畑にした時は連作障害や雑草を防ぐし、復元田では減肥できる。他品目にもメリットがあります」と、取り組みの拡大に大きな期待を寄せています。
注目の省力化トピック
食生活の変化で拡大する業務用で需要を確保
ホクレン主食課
米の消費量は年々減少しており、特に家庭での消費量減少は顕著です。その中で、レストランなどの「外食」やコンビニなどの「中食」といわれる業務用での米の使用量は拡大傾向にあります。
今後も需要拡大が見込める業務用は安定供給が求められるため、北海道に対する各取引先の期待は非常に大きくなっています。それだけに省力化技術導入による安定供給の実現が重要です。
食味や認知度の向上により家庭用向けで確固たる地位を築いてきた北海道米。ホクレンとしても、業務用も含め、幅広い業態で需要を確保することで、稲作経営の安定化に貢献します。