省力化最前線3 高密度播種短期育苗

省力化で生まれた余裕を生かす

キーワード:水稲省力化
省力化で生まれた余裕を生かす
写真1.移植には植え付け部の掻き取りツメなどを変更した専用の田植え機が必要。
苗箱の数や苗の補給回数を大幅に削減できます。

 

この記事は2019年12月1日に掲載された情報となります。

 

育苗箱に慣行より2〜3倍の種を播く密苗。いち早く取り組んでいるのが、知内町の笠松剛久さん。どのくらいの省力化につながったのか、田植え時に現地を訪ねました。

取材日 2019年5月29日

 

笠松 剛久さん

知内町 笠松  剛久さん

「いつも田植え時期はごはんも食べずに寝るくらい疲れていましたが、今は余裕ができました」

 

Profile:水稲13.5ha、畑(緑肥と大豆)5ha、60坪のハウス70棟でニラとトマトを作付け。1974年生まれ。

 

 

密苗はいいことだらけ

3年前、農機具メーカーからの依頼で密苗の試験栽培に協力した知内町の笠松剛久さん。30aの田んぼで試したところ感触が良かったので、昨年から慣行栽培の水田11・5haを全て密苗に切り換えました。

「昨年のひどい天候でも、収量は慣行栽培より増えましたよ」

従来は10a当たり36枚使っていた育苗箱が11〜12枚に削減。育苗ハウスの面積も苗を運ぶ回数も3分の1に減り、苗の積み込みや苗箱の後始末の時間も短縮。土や農薬代も減りました。

「密苗はいいことだらけです。田植えも運転手と苗を運ぶ人の二人で足りるので、ほかの人はハウスでニラやトマトの仕事ができる。いつも田植え時期はごはんも食べずに寝るくらい疲れていましたが、今は余裕ができました(写真1・2)」

 

写真2.笠松さんと奥さんの咲子さん。
写真2.笠松さんと奥さんの咲子さん。
ほかに両親と従業員2人とパートさんで営農。一部、直播にも取り組む笠松さんは「栽培法によって分けつ時期が変わることなど、挑戦して分かる新たな発見もあり、米づくりへの理解が深まります」ととても勉強熱心。

 

密苗の育苗期間は約2週間。笠松さんは芽出しの時期に光の透過率10%のフィルムを使い、苗焼けを避け、かつ徒長しないようにしています。

「高密度になれば光を浴びようと競って伸びたがるので、それを抑えるために最初から光を当てます。緑化し出したら、霜が降りない限りハウスは開けっ放し。温度を低くし、健苗ローラーをかけます。要は過保護にしないことが重要(写真3)」

 

発芽後14日間の根マット

写真3.播種量が多いため発芽後14日間で十分な強度の根マットになります
写真3.播種量が多いため発芽後14日間で十分な強度の根マットになります。
育苗ハウスは暖かすぎると苗焼けしたり徒長するため、笠松さんいわく「寒さに当てていじめる」ことが必要だそう。

 

2葉前後、長さ10〜12‌㎝で移植します。茎が細いので、最初はみすぼらしい感じがしますが「1カ月半もすると慣行栽培と全く変わらなくなる」のだそう。苗が細いので土がとろとろだと風で抜けやすくなるため「代掻きをしすぎないことも大事」と言います。

 

先輩農業者の知恵も継承

笠松さんは、密苗に変えたタイミングで、近所の伊藤さんと共同で田植えをすることにしました(写真4)。

 

伊藤勝夫さん(左)、笠松さん(中央)、父親の彰さん(右)。
写真4.田植えと稲刈りを共同で行っている伊藤勝夫さん(左)、笠松さん(中央)、父親の彰さん(右)。
伊藤さんは田んぼ4haに乳牛5頭を飼養。稲わらを牛舎の敷きわらにして堆肥をつくり、春に還元する循環農法を長く続けています。

 

伊藤さんは笠松さんの親と同世代。以前から収穫は緒にしていましたが、田植えにも余裕を持てるようになったことから、共同作業を持ちかけました。

「田植えが大変で辞める人もいるけど、農家は生涯現役だと思うから、歳をとっても体が動く間は楽しみながら農業を続けてほしい。僕はその手助けをしたいし、先輩からいろいろ学びたい」と笠松さん。そうした思いが芽生えたのは8年前の出来事がきっかけ。

「隣の田んぼの方に『高齢で体がきつくなったので貸すからつくってくれないか』と頼まれて作付けしたら、うちの田んぼと違う。やけに乾きがいいし、稲がいわゆる『秋落ち』しない。聞いたら30年前から稲わらをすき込んできたと言うんです」

残念ながらその方は5年前に他界されましたが、以来、笠松さんは教わったとおり、稲を刈ったら、その日のうちに稲わらをすき込む作業を欠かしません。

「土づくりは時間がかかるがとても重要。密苗で省力化できた分、土づくりに時間を使いたい」という笠松さん。先進的な技術を取り入れる方、昔ながらの知恵の継承も大事にしています。

 

注目の省力化トピック

自動給水装置
一般社団法人北海道米麦改良協会

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水田のモニタリングや給水・排水をスマホ・パソコンで遠隔操作または自動で制御できるシステム「自動給水装置」(写真はワタラス)。

圃場の見回り回数を減らすことができ、基盤整備後の大型圃場の水管理にも有効です。稲作労働時間の約3割を占める水管理作業の低減が期待でき、減らした時間をほかの作業に回せます。

最近では、オープン水路にも設置可能な、簡易的な自動給水装置も開発されており、それらの機器については、現在、全道各地で実証試験に取り組み、普及の可能性を検証しています。