この記事は2019年2月1日に掲載された情報となります。
種子法が昨年4月1日に廃止され、種子の供給体制の変化や価格の上昇を心配する声もあります。
今後、種子の生産に大きな影響は出るのでしょうか。
北海道農政部で、種子法廃止後の取り組みと今後の展望を聞きました。
北海道農政部 生産振興局
農産振興課 畑作グループ
主幹 小谷 馨一さん(左)
主査 大坂 公一さん(右)
種子法は戦後の食糧増産を目的に制定された法律でした
種子法(主要農作物種子法)が制定されたのは1952(昭和27)年。食料増産という戦後の課題を背景に、主要農作物(稲・麦・大豆)の種子生産と普及を国及び都道府県が主導して行うと定めた法律です。
優良な品種の選定や、原種および原原種の生産、圃場審査・生産物審査などを都道府県に義務づけて、生産者の皆さんに確実に種子を届ける役割を担ってきました。
「民間企業が種子産業に参入しにくい」という理由で種子法は廃止されました
種子法は「民間の品種開発意欲を阻害している」との理由から、2018(平成30)年4月1日付けで廃止されました。
国は「民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する」としていますが、種子生産のための財源措置がなくなるのではと不安視する声が高まり「種子生産の財源をこれまで通り確保すること」「特定の事業者による独占によって弊害が出ないようにすること」が附帯決議に盛り込まれました。
北海道では、種子法廃止後も従来の体制を維持しています
種子法の廃止後、種子生産業務を種子協会などの団体へ移管した県もありますが、道では「種子生産の在り方検討部会」を設置して検討を重ねた結果、2018(平成30)年度については現行体制の維持を決定。
従来通りの種子生産を継続できるよう、必要な予算を確保するとともに、要綱や要領を整備して、これまで同様の種子生産を続けています。
現在は「北海道主要農作物等の種子に関する条例(仮称)」の制定に向けて取り組んでいます
2019(平成31)年度以降の種子生産の体制については、現在、その根拠となる条例の制定に向け準備を進めている最中です。
条例の内容には目的、基本理念、道の責務などのほか、優良品種にかかる知的財産権の保護、財政上の措置まで盛り込んでいます。
昨年10月から1カ月間、条例の骨子案に対する意見公募(パブリックコメント)を実施。寄せられた129件の意見を踏まえて作成した条例(案)は、法規審査委員会の審査を経て道議会に提案する予定です。
条例の制定で、今後も良質な種子を地域と共に確保したいと思います
種子法の対象は稲・麦・大豆だけでしたが、今回の条例案では地域の声も踏まえ、新たに小豆、いんげん、えんどう、そばも対象に加えています。
また、「北海道優良品種認定審議会」を知事の附属機関として設置。これまで同様に民間事業者で開発される品種も含め、公平性を確保し、優良品種の認定を行いたいと考えています。
さらに種子供給について民間活力を最大限に活用するといった国の方針を踏まえ、JAなどの民間事業者が原種および原原種の生産を行えるようにし、今後、一部地域でしか栽培されていない作付面積の少ない優良品種は、原原種・原種の生産を地域に委ねる仕組みを構築したいと考えています。
こうした取り組みを行うことで、これからも優良品種の種子の安定供給を図っていきたいと考えています。
これを機に、種子に対してもっと関心を
消費者の間では、種子法の廃止にともなって遺伝子組み換え作物が流入するのではと危惧する声もありますが、道では既に「GM条例(北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例)」により栽培が規制されており、その心配はありません。
種子法の廃止を機に、これまでになく種子の価値がクローズアップされている今、私たちがお伝えしたいのは、どうか種子への関心を持ち続けてほしいということです。
そして、安定した種子の供給と高い品質を守るためにも、生産者の皆さんにはぜひとも「北海道の生産体系でつくられた種子」を使っていただきたい。
種子の一粒一粒には、品種育成者から種子生産者、関係機関まで、たくさんの人の責任感や使命感が込められているからです。