種の現状 北海道における種子生産の現状

種子が生産現場に届くまで

キーワード:種子種子生産

種子が生産現場に届くまで

 

この記事は2019年2月1日に掲載された情報となります。

 

当たり前のように届けられる種子。質の高い種子を届けるため長期的な計画のもと、多くの人の努力によって生産されています。計画づくりに携わる北海道農政部 生産振興局 農産振興課で、種子生産の仕組みを教えてもらいました。

 

小谷 馨一さん、大坂 公一さん

北海道農政部  生産振興局
農産振興課 畑作グループ
主幹 小谷 馨一さん(左)
主査 大坂 公一さん(右)

将来を見据えて種子の生産計画を立てる

毎年、道や農業団体、試験場などで構成される「北海道種子協議会」が協議し、作物ごとの種子生産計画を策定しています。対象となるのは稲・大麦・小麦・大豆・小豆・えんどう・いんげん・そばの優良品種(奨励品種)です。

その年の種子生産見込みや一般圃場での中期作付け意向を踏まえ、原種および採種を行う圃場の面積を決定。そのために必要になる原原種の圃場面積と備蓄量を決めます。

種子については常に3〜4年先を見越した生産計画が求められます。

 

耕種作物面積のうち稲・麦類・大豆の占める割合は63%。重要なだけに公的機関が種子生産を担っています

主要農作物(稲・大麦・小麦・大豆)の作付面積は、全道の耕種作物面積()の63%を占めています(図1)。

 

図1.北海道における主要農作物等作付面積比率(28年産)
図1.北海道における主要農作物等作付面積比率(28年産)

 

これらは北海道の農業には欠かすことのできない基幹作物。毎年大量の種子が必要となります。戦後の食料増産の要請もあり、良質な種子の生産と普及を進めるため、公的な機関が種子生産を担うようになったのです。

耕種作物面積=耕作面積から野菜と飼料作物の作付面積を除いたもの

 

種子生産は最低でも4年をかけたバトンリレーを経て出荷されます

優良品種に認定された新品種は、育種家種子の生産に始まり原原種、原種、採種と3段階で増やしていきます。つまり、種子が生産者のもとに届くまでには最低でも4年かかる仕組みです。

時間と人手がかかる種子生産は、道・品種育成者・種子生産者など各ランナーが責任を持って次に引き継ぐバトンリレーです(図2)。

 

図2.主要農作物の種子が一般生産者に届くまで
図2.主要農作物の種子が一般生産者に届くまで

 

ほんの一握りの種から、水稲10万ha、小麦12万ha、大豆4万ha分の種をつくり、最終ランナーの生産者へとつなぐ生産システムによって種子の品質確保と安定供給が実現されているのです。

「ゆめぴりか」が短期間のうちに高級ブランド米として全国で販売できるようになったのも、順調に種子を生産し、供給する優れた生産システムがあったからです。

 

品質を守るために何度も審査

種子の品質を確保するため、原原種・原種・採種の各段階で道(普及指導員等)が審査を行っています。審査は「圃場審査」と「生産物審査」の2段階。圃場審査では圃場単位ごとに異型・雑草・病虫害を調査し、合格した圃場の種子のみを収穫します。

生産物審査は収穫後に試験を行って発芽率をチェック。合格した種子のみが流通します。

 

北海道の主要農作物の優良品種数は50

さまざまな審査をクリアした優良品種とは、気候風土にあった優れた特性を持ち道内で普及すべきと道が認定した品種です。

現在は水稲21・小麦7・大麦2・大豆20と主要農作物だけで50品種を認定しています。

これに小豆12・いんげん16・えんどう2・そば5の優良品種を合わせると合計85品種。

近年、食の多様化を背景に、パン・中華麺用、日本麺用、菓子用と用途別の小麦ができるなど品種数が増える傾向にあり、種子生産の現場も余裕のない状態です。

 

原原種の生産から水稲種子の調製まで
ホクレンも種子生産の一端を担っています

 

種子の増殖はただ増やせばいいというものではありません。異型や病気がなく、高い発芽率を持つ種子を増やすには、多くの手間と時間がかかります。種子の生産に携わる現場の人々の思いをお伝えします。

 

藤井正樹さん

ホクレン 滝川種苗生産センター
センター長 藤井 正樹さん

写真1.いわいくろ大豆(原原種)の選別
写真1.いわいくろ大豆(原原種)の選別
水分含量を調製した収穫物を、調製ラインで選別し、色や形の悪いもの、割れたものを手作業で取り除き、良い種子だけに仕上げます。

 

ホクレン滝川種苗生産センターでは「原原種の生産」と「稲の原種・一般種子の調製」を担当しています。

「原原種の生産」は、品目ごとの栽培管理基準に基づき、異種・異品種種子の混入や自然交雑の防止に注意を払い行っています。

圃場では異型株や病害株を早期に発見して抜き取るため、水稲は1本苗で定植し、麦や大豆は畝の幅を広くとっています。

そのため、単収も一般栽培のように上がりません。稲や麦の収穫は、隣接する異品種との自然交雑が心配なので、隣接部から数mを刈り取って処分し、中央の種子だけを使います。圃場をひと周り処分してしまうので、作付面積の小さな品種になるほどロス率が高くなります。

「稲の原種・一般種子の調製」は、専用の調製施設で道内の原種・採種圃場で栽培された種籾原料の精選調製を行います。道内の水稲農家さんが使う21品種の一般種子は道の生産物審査を経て全てここから供給しています。

また、主要農作物の他にも小豆・いんげん・高級菜豆・えんどうなどの原原種の生産や備蓄も担当しています。

種子づくりは一定の品質が当たり前で「今年のタネはよかったよー」と評価されることは少ないですが、道内の農作物生産を支える重要な仕事だと思っています。確かな品質の種子ができるまでには、たくさんの人の手を経ていることを知ってもらえたらうれしいですね。

 

写真2.原原種の調製ライン稲・麦・豆類の原原種
写真2.原原種の調製ライン
稲・麦・豆類の原原種を、風力、粒形、比重など、さまざまな方法で高品質の種子に調製する機械を導入しています。