生産性向上技術 収量性に優れた新たな業務用品種

水稲品種「そらゆき」をたくさん穫るには

キーワード:そらゆき栽培技術

水稲品種「そらゆき」をたくさん穫るには

 

この記事は2017年8月1日に掲載された情報となります。

 

道総研 中央農業試験場生産研究部 水田農業グループ研究主任
長田 亨さん

Profile:埼玉大学大学院理工学研究科博士前期課程基礎化学専攻修了。2004年中央農試農産工学部農産品質科、2010年同生産研究部水田農業グループ、現在に至る。主に水稲の栽培試験を担当。釧路市出身。

 

POINT!
・初期生育を促進する基本技術励行
・倒伏に注意した栽培管理

 

1.「そらゆき」の栽培特性と目標収量

(1)栽培特性
「そらゆき」の最大の長所は、既存品種に優る収量性です。また、いもち病や冷害に強く、割れ籾が少ないなど、優れた農業特性があります。

一方、「そらゆき」は「ななつぼし」と同じくらい倒伏しやすく、倒伏に注意した栽培管理が必要です。また、初期の分げつ性が劣ることから、初期生育を促進する基本技術の励行が重要です。

 

(2)目標収量
安定生産を考慮した「そらゆき」の適正な籾数は35.000粒/㎡であり、これに相当する10a当たり収量650㎏が目標収量となります(表1)。

 

「そらゆき」の多収栽培指針
表1.「そらゆき」の多収栽培指針(道総研作成)
注1)差額収益は、販売価格11,000円/60kgとし試算した。5,500円/10a=11,000円/60kg×30kg/10a
注2)差額費用は、各導入技術の施肥に係る投下費用(円/10a)と慣行の投下費用の差額である。
注3)差額利益は、差額収益から差額費用を控除した額である。

 

また、この目標収量を達成するために必要な成熟期窒素吸収量は11㎏/10aです。

 

2. 「そらゆき」の多収栽培指針

(1)基肥窒素施肥
施肥試験では、基肥窒素施肥量を施肥標準量から2〜3㎏ N/10a増やしたとき、成熟期窒素吸収量が11㎏/10aに近くなり、収量は最大となりました(図1)。

 

基肥窒素施肥量と精玄米収量、成熟期窒素吸収量の関係
図1.基肥窒素施肥量と精玄米収量、成熟期窒素吸収量の関係
(2015-2016年、中央農試・グライ低地土圃場、*は施肥標準量、エラーバーは標準偏差)

 

このことから、基肥窒素施肥量の上限は施肥標準量+3㎏ N/10aです。また、初期生育が不良な地帯では、初期生育促進のために側条施肥の導入が推奨されます。

 

(2)幼穂形成期の窒素追肥
幼穂形成期の窒素追肥は、栽培期間中に実施できる収量安定化技術の一つです。「そらゆき」では幼穂形成期の茎数を生育診断指標として、茎数500本/㎡未満の場合に追肥が必要と判断できます。

また、「北海道施肥ガイド2015」で示されている窒素分追肥対応の土壌診断基準は「そらゆき」にも適用できます。生育診断と土壌診断を併用することによって、的確な追肥の要否を判断することができます。

 

(3)倒伏対策
「そらゆき」は成熟期の稈長80㎝、穂数700本/㎡を超えると倒伏が多くなります。成熟期の稈長が80㎝、穂数が700本/㎡となる止葉期の草丈と茎数は、それぞれ70㎝、800本/㎡であり、これを超えると倒伏の危険性が高いと判断できます。ただし、倒伏軽減剤の使用を検討する場合には、過去、当該圃場における倒伏の発生頻度を考慮しましょう。

 

(4)収穫時期

出穂期後の日平均気温積算値1100℃付近が「そらゆき」の収穫適期の目安です(図2)

 

出穂期後日平均気温積算値と粗玄米の収量、整粒歩合の関係
図2.出穂期後日平均気温積算値と粗玄米の収量、整粒歩合の関係
(2015-2016年、上川農試・中央農試、エラーバーは標準偏差)

 

ただし、栽培条件によって収穫適期は多少前後するので、併せて試し刈りを実施し適期収穫に努めましょう。

「そらゆき」の栽培管理では、栽培指針と併せて、従来の基本技術を励行することが重要です。本指針が「そらゆき」の安定生産に貢献できれば幸いです。

 

参考資料
「北海道施肥ガイド2015」:北海道農政部編を(公社)北海道農業改良普及協会が発行。