今年4月1日から全ての企業に「パワハラ対策」が義務付けられます。農業においてもパワハラの横行は無視できません。日本ハラスメントリスク管理協会の金井絵理さんにパワハラの定義や具体例、防止策などを聞きました。
この記事は2022年2月1日に掲載された情報となります。
一般社団法人 日本ハラスメントリスク管理協会
代表理事 金井 絵理
Profile:北海道出身、祖父母が酪農家。大手人材会社で採用サービスの法人営業、東証一部上場企業2社で人材育成と制度設計を経験後、講師として独立。2021年に一般社団法人 日本ハラスメントリスク管理協会を立ち上げ代表理事に就任。
企業のパワハラ対策が法制化
ハラスメントとは、いじめや嫌がらせを意味する英語です。性的嫌がらせのセクシャルハラスメント(セクハラ)、妊娠や出産、育児や介護の休業に対して労働者が不利益を受けるマタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)など、さまざまな種類があります。
中でも今、注目を集めているのが抵抗できない関係を背景にしたパワーハラスメント(パワハラ)です。すでにセクハラは「男女雇用機会均等法」(2007年)で、マタハラ・パタハラ・ケアハラは「育児・介護休業法」(2017年)で対策が講じられてきましたが、パワハラは2019年にようやく「パワハラ防止法(改正労働施策推進法)」が制定。今年4月1日からは大企業に加え中小企業にもパワハラ対策が義務付けされました。
職場で働くすべての人が対象
日本ハラスメントリスク管理協会の金井絵理さんは、法制化の背景をこう話します。
「厚生労働省の調査では、職場でのいじめや嫌がらせは右肩上がりです(図1)。これまでは指導なのかパワハラなのか判断が難しい場合もありましたが、法律で定義が明確となり、対策が強化されています」
パワハラ防止法では①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、この三点すべてに該当する場合をパワハラと定義しています。正規職員だけではなく、パートや派遣社員も対象です。
ハラスメントのある職場は、雰囲気が悪く、働く人の心の健康が損なわれ、十分に能力を発揮できません。離職者が多く、生産性も低下します。これは雇用者がいる法人だけでなく家族だけで作業をする生産現場も同じといえます。
パワハラを防ぐために
では、職場でのパワハラを防ぐにはどうしたらいいのでしょう。金井さんは「まず何がパワハラに当たるのか、周知することが大切」と言います。
厚生労働省が分類した代表的なパワハラは上記の6類型(図2)。必ずしも上司から部下に対するものとは限りません。「たとえばデジタル機器の扱いにたけた部下が、それを苦手とする上司に使い方を教えないなど、優位な立場の人が抵抗できない人にする嫌がらせもパワハラにあたる」そうです。
パワハラを「指導だ」と言う人がいるかもしれませんが、指導は相手の成長を促すのが目的。対してパワハラは自分のイライラをぶつけ、相手を思い通りにしようとする行為。自分の言動がパワハラに当らないか、見直してみる必要がありそうです。
「『次は気を付けて』で済むことを、『そもそもお前は生活態度が悪い』など関係のないことまで蒸し返すと、相手は何で叱られているのか分からなくなる」と金井さん。「指導なら具体的に改善点を指摘することがポイント」だとアドバイスします。
農業においてもパワハラ対策を
従業員を雇用している経営者は、職場にパワハラがないか気を配る必要があります。相談窓口を明示したり、雇用環境についてのアンケートをとったり、対策を考えましょう。
「仕事のできる従業員が同僚に嫌がらせをしているケースもあります。みんなの士気を下げてしまうような言動はやめてほしいとはっきり告げるべきです」
家族経営の場合は、職場と家庭を切り離して考えなければなりません。「仕事でトラブルがあると、つい感情的になりがちですが、帰宅後まで引きずらないこと。仕事上で必要な指導や注意だけにとどめ、日頃の不満をぶつけないように」と金井さん。家族も従業員も大切な仕事のパートナー。お互い気持ちよく仕事ができる職場をつくっていきたいものです。