家族農業経営において、家族の力は必要不可欠。特に、最近は夫婦で営農する重要性が高まっています。それを推進する「家族経営協定」にも詳しい専門家にお話を伺いました。
この記事は2020年4月1日に掲載された情報となります。
一般社団法人 家の光協会 理事 齋藤 京子さん
Profile:農林水産省女性・就農課長、消費生活課長、中国四国農政局次 長などを経て、2009年に退職。2017年3月まで農山漁村女性・生活活動支援協会専務理事。 一般社団法人 家の光協会理事。農村女性のエンパワーメントに長く関わる。
「パートナーシップ経営」と「ワーク・ライフ・バランス」が重要
「日本の農業経営において、家族のカタチが変わってきています」と話すのは、一般社団法人家の光協会の齋藤京子理事。
「昔の農家は親子三世代で営農したりして、多世代で暮らしていました。例えば、農家の跡取り長男と結婚して、家族の一員になると『△△家に入る』と、言われたものです。それが、今は一緒に暮らしたいと思う人と結婚して、親家族とは自宅が別々だったり、兄弟夫婦が一緒に営農したり。『夫婦』が基本単位となっていて、それぞれが家族として一緒に営農しているイメージです」 つまりは、夫と妻それぞれの意思が重視され、話し合って、お互いを尊重することが求められる時代になってきました。
「家族農業経営では、夫婦が仕事として農業経営に関わりつつも、生活も共にするという特徴があります。そのため夫と妻が話し合い、理解し合って農業に取り組める『パートナーシップ経営』になっているかや、家族員の『ワーク・ライフ・バランス』がとれているかどうかが、きわめて重要になります」
女性のモチベーションが高まれば、経営や生活の充実にもつながる
では、夫婦で営農に関わることで、どのような成果が生まれるのでしょうか?ここで、夫婦が営農に携わる一つの目安として「家族経営協定」を用いて、齋藤理事に説明していただきました。
「2005年の農林業センサス(図1)を見ると、経営規模(販売金額)が大きい農家ほど、家族経営協定を締結している割合が高くなっていることが分かります」 更に、農業経営や生活環境のプロセスについて次のように話します。
「家族経営協定の締結による変化として男性・女性ともに『話し合い機会の増加』を最も多くあげています(図2)。次いで、女性では『経営・生活の方針決定への参画』『経営目標の共有化』『社会活動や余暇活動の活発化』へとつながっているようです。これらから夫婦でコミュニケーションを取ることは、女性が経営にモチベーションを持って関わることにつながり、更には売り上げや生活の充実につながると言えるのではないでしょうか」
「人」「モノ」「お金」という経営の3要素の中で、運営資金となる「お金」や、農地や機械施設のような「モノ」も重要ですが、やはり一番伸びしろのある要素は「人」。「『これをやって、あれをして』と言われるままに作業をしていたのでは、毎日が苦痛です。それが研修会などに参加し、作業の意味や目的が分かってくると、もっとこうしたほうがいいといったアイデアが生まれ、事前準備もできるようになり、無駄な作業がなくなってきます。このようにいろいろなことに参加できるチャンスが増えることで、人は意欲を高めて成長し、結果的に経営が伸びていくと思います。農業における女性活躍に役立つ情報が満載のポータルサイト『Step WAP』(参照1)がオープンしていますので、こちらもご活用ください」
「家族経営協定」はパートナーシップ経営にも事業承継にも使える
「パートナーシップ経営では、パートナーに経営に参画してもらい報酬とリスクを共有することがポイント。そのためには、❶よく話し合い、❷お金の流れを見える化し、❸お互いに認め合うことが欠かせません」と齋藤理事。先ほどから出ている「家族経営協定」はここでも役立ちます。「『家族経営協定』は経営の中であいまいな点や不満に思っていることを書き出して、こうしようと決めること。農家の働き方改革とも言えます。ちなみに、協定を締結しておくと事業承継の際もスムーズです」
ライフとワークのチェックシートで認識合わせ
しかし、「家族経営協定」をすぐ導入するのはハードルが高く、抵抗のある方もいるでしょう。そんなご夫婦には、まずお互いがどういうことを考えているのか、夫婦二人の認識合わせから始めるのがおすすめ。そこで、齋藤理事に紹介いただいたのが、ライフとワークのチェックシートです。「チェックシートを夫婦別々にやってみて、最後にどのくらい認識が違うのかを確認してほしいと思います。普段一緒にいても意外と『へ〜、そんなこと考えていたんだ』ということが少なくありません」 夫婦によるパートナーシップ経営に役立つ「家族経営協定」。まだ導入していないなら一度検討してみる価値はあるでしょう。
家族経営協定を始めよう!
家族経営協定の取り決めの内容や様式に決まりはありません。家族みんなの話し合いを通じて必要なことから一つずつ始めてみましょう。