この記事は2022年2月1日に掲載された情報となります。
道総研 十勝農業試験場
研究部 生産技術グループ 主査 坂口 雅己
(前 道総研 道南農業試験場 研究部 生産技術グループ)
Profile:1973年根室市生まれ。1995年帯広畜産大学卒業。主に、道南・上川・中央農試、原子力環境センターで野菜の栄養診断や施肥法などの研究に従事し、2014年に博士(農学)を取得。2021年から現職。
POINT
●トマトの追肥量を地力(熱水抽出性窒素)に応じて決めることで、トマトの生育を適切に管理できるようになります。
施設野菜の土壌診断では、作付け前の硝酸態窒素量に基づく窒素施肥対応を行ってきました。一方で、長年使用しているハウスでは、施用した堆肥の累積で地力(窒素肥沃度)が高いところが増え、栽培期間の窒素供給過多による過繁茂が懸念される状況となっています。そこで、トマトについて、それを回避するべく硝酸態窒素に加え、地力の指標である熱水抽出性窒素を診断項目とした窒素施肥対応を開発しました。
トマト生育期間における地力由来の窒素吸収量
地力由来の窒素吸収量を明らかにするため、堆肥の施用量や連用年数により地力「低」「中」「高」の3水準設けた農試ハウス(熱水抽出性窒素4、10、15 mg/100g)で、窒素を施肥しない条件でトマトを栽培しました(写真1)。
生育初期に当たる定植〜第1果房肥大期(図1の左側)では、地力由来窒素の吸収量は少なく地力の差も小さいですが、追肥時期に当たる第1果房肥大期〜摘心時(図1の右側)では、吸収量や地力による差が大きいことから、地力由来窒素の大部分はこの時期に吸収されていることが分かりました。
熱水抽出性窒素で窒素減肥できる量
熱水抽出性窒素1mg/100gの差が窒素施肥量として何kg/10aに相当するか確認するため、先ほどのハウスで、地力「低」で施肥ガイドに沿って施肥した区を対照に窒素減肥試験を行いました。
熱水抽出性窒素1mg/100g当たりの窒素減肥量が2kg/10a程度までは、果実収量(図2の上段)と窒素吸収量(図2の下段)いずれも対照区と同程度となり、熱水抽出性窒素1mg/100g当たり2kg/10a程度までの窒素減肥が可能でした。
一方、道内の各トマト産地における熱水抽出性窒素に対する地力窒素供給量は、地域や土壌条件で幅があり、さまざまな土壌での安全を考慮し、熱水抽出性窒素1㎎ /100g 当たりの窒素減肥量を1㎏ /10a と設定しました。
熱水抽出性窒素に基づく窒素施肥対応
地力由来窒素の多くが追肥時期である第1果房肥大期以降に吸収されることから、基肥の窒素量は従来と同様に作付け前の土壌硝酸態窒素に基づいて決定し、追肥の窒素量を熱水抽出性窒素に基づいて対応することとしました。
また、施肥設計の組み立てやすさを考慮し、窒素肥沃度の区分は、熱水抽出性窒素(mg/100g)が5未満、5〜10、10以上の3区分に設定し、それぞれ1回当たりの窒素追肥量を4、3、2kg/10aとしました。
これらを従来の施肥対応に組み入れたものが表1です。この施肥対応を7段収穫(追肥5回)で行った場合、熱水抽出性窒素5〜10mg/100gおよび10mg/100g以上では、従来と比べ全体で5kg/10aおよび10kg/10aの窒素減肥となります。
なお、土壌診断(サンプル採取)時期について、作付けの前後で変動の大きい硝酸態窒素は各作付け前にする必要がありますが、熱水抽出性窒素はその変動が小さいので作付けごとにする必要はありません。堆肥施用前が望ましい時期で、その分析値は3〜5年間利用可能です。