栽培

無加温パイプハウスを用いた野菜の周年栽培技術

この記事は2021年8月1日に掲載された情報となります。

道総研 上川農業試験場 研究部 生産技術グループ 主査 髙濱 雅幹

道総研 上川農業試験場 研究部 生産技術グループ 主査 髙濱 雅幹

Profile:岐阜県出身。北海道大学環境科学院修了。花・野菜技術センター、道南農業試験場勤務を経て2020年より現職。

POINT
●北海道施肥ガイドは、作物に最適な施肥量を考える時の力強いパートナーです。

北海道では寒さの厳しい季節に野菜はほとんど栽培されていません。しかし、保温装備を充実させたハウスであれば、暖房を用いなくてもさまざまな葉根菜類が栽培できます。

そこで、冬季と早春季における葉根菜類無加温栽培とそのために必要なパイプハウスの保温・耐雪装備を紹介します。更に従来の夏作型との組み合わせによる無加温周年栽培についても報告します。

冬季に栽培できる葉根菜類

比較的耐寒性の強い7品目を中心に、道北および道南地域における葉根菜類の栽培体系例を表1に示します。秋に播種・定植した後、気温は徐々に低下し生育が遅くなります。そこで、ほとんどの品目で生育が停止する12月頃までに収穫可能なサイズに生育させます。そのために適正な播種・定植時期が地域ごとに異なりますので注意してください。

各種葉根菜類の生育限界温度と冬季栽培体系例
表1.各種葉根菜類の生育限界温度と冬季栽培体系例 注)保温装備は図1参照。

一方で、低温で生育が停止すれば、夏季栽培より長期にわたって出荷可能となります。

早春季に栽培できる葉菜類

また、冬季栽培のハウスを利用すれば道北地域でも2月上旬にほうれんそう、チンゲンサイなどを播種・定植し、3月下旬〜4月上旬に収穫可能です(表2)。道南地域ではこれまでも早春季に葉菜類栽培が行われていますが、更に保温装備を充実させて結球レタスを栽培すると、収穫が旬早まります。

各種葉菜類の早春季栽培体系
表2.各種葉菜類の早春季栽培体系 注)パイプハウスの保温装備はフィルム4層で実施(図1参照)。

冬季栽培に向いたパイプハウス

冬季栽培では野菜が低温障害を起こさないための保温装備が重要です。保温装備には、外張りの空気膜二層化や内張り、トンネルなどがありますが、これらの装備を組み合わせると保温性が向上します。そこで、多くの葉根菜類が栽培可能な最低気温マイナス5℃以上を確保するための各地の保温装備の目安があります(図1)。

-5℃を確保するために必要な道内各地におけるパイプハウス保温装備の目安
図1.-5℃を確保するために必要な道内各地におけるパイプハウス保温装備の目安

また、冬季栽培では積雪によるパイプハウスの倒壊が懸念されます。そこで各地域の日積雪量をもとに、必要とされるパイプハウスの強度をマップ化しました(図2)。既存ハウスにクロスタイバーやアーチ構造を追加して補強しましょう。

越冬栽培に必要なパイプハウスの耐雪強度の目安
図2.越冬栽培に必要なパイプハウスの耐雪強度の目安 注)毎日1回の屋根の除雪を前提として評価。

周年栽培で所得アップ!

北海道で般的な野菜の夏季栽培に、農閑期とされてきた秋季〜春季の葉根菜類無加温栽培を組み合わせることで周年栽培が可能となります(図3)。冬季〜早春季栽培に向いたハウスの保温装備や補強のためにはコストがかかりますが、各地域の気象に適したパイプハウスを導入し適正な品目を選択して年間3作栽培すると、10a当たり所得を30万〜100万円以上増やすことも可能な計算になります。所得アップの方法として参考にしてください。

道北地域での無加温パイプハウスを用いた野菜の周年生産体系例●:播種、▲:定植、■:収穫
図3.道北地域での無加温パイプハウスを用いた野菜の周年生産体系例 ●:播種、▲:定植、■:収穫
上川農試無加温パイプハウス内部写真(2020年12月)
写真1.上川農試無加温パイプハウス内部写真(2020年12月)

より詳細な「葉根菜類冬どり栽培マニュアル」「保温装備マップ」「耐雪強度マップ」は上川農業試験場および道南農業試験場のWebサイトに掲載しています。 https://www.hro.or.jp/list/agricultural/research/kamikawa/