転炉スラグの病害軽減効果の確認

転炉スラグの病害軽減効果の確認

カテゴリー:実証試験
実施年度:2015~2017年度
対象:対象:JAとまこまい広域、JAむかわ、JAしずない
実施:苫小牧支所営農支援室
協力関係機関:胆振農業改良普及センター東胆振支所、日高農業改良普及センター

POINT
●転炉スラグ施用による、ほうれんそう萎凋病の被害軽減効果

この記事は2022年2月1日に掲載された情報となります。

ほうれんそうの連作障害に効果

胆振管内では、ほうれんそうの連作による萎凋病発生が問題となっています。萎凋病などの土壌伝染性フザリウム菌による病害は土壌pHを上げると発病を軽減できますが、一方では微量要素欠乏を生じる恐れがあります。そこで2015年にJAとまこまい広域では、主成分がケイ酸カルシウムで微量要素も含む「転炉スラグ」施用による効果の確認試験を実施しました(写真1)。pHを上昇させながらも微量要素の欠乏が生じにくい本資材を施用した結果、発病を軽減することができました(写真2)。

転炉スラグ施用の様子
写真1.転炉スラグ施用の様子
2015年7月7日(播種25日目)写真手前が無施用区。萎凋病によりほぼ枯死状態。
写真2.2015年7月7日(播種25日目)写真手前が無施用区。萎凋病によりほぼ枯死状態。

また、翌年(2016年)も継続して試験を実施し、効果が持続していることが確認できました(図1)。

ほうれんそうの発病割合
図1.ほうれんそうの発病割合(調査株中の割合)

他地区への広がり

同様に2016年には、JAとまこまい広域の他にJAむかわ、JAしずない、JA新はこだて、JAきたひやまにおいても、ほうれんそうの萎凋病被害軽減を図るため、転炉スラグを施用した試験を実施しました。いずれも施用した区では萎凋病の発生が軽減されました。

最近の取り組み状況

2020年11月にJAとまこまい広域ほうれん草部会にて「転炉スラグ技術研修会」をWebで開催しました。現地では土壌消毒剤も使われていますが、特に連作圃場において萎凋病発生の心配がある場合、発生予防として転炉スラグの施用を検討しても良いのではないかという話題になりました。

今回の研修会は、就農間もない若手生産者に転炉スラグについて学んでもらいたいという目的で開催しました。今後も積極的に研修会などを行い普及していきたいと考えています。

JAとまこまい広域では、これまで延べ9名の生産者が転炉スラグを活用しています。

施用の留意点

転炉スラグは、土壌pHを上げることで萎凋病の発病低減が期待できる資材です。なお、施用量は土壌タイプや原土pHによって大きく異なります。したがって、施用する場合には必ずハウスの土壌を用いて、資材投入量によるpH上昇程度を示す緩衝曲線を作成のうえ、土壌pH7.5を改良目標に10a当たりの施用量を決定する必要があります(図2)。施用量・コスト面を勘案した上で導入を判断してください。

緩衝曲線の例
図2.緩衝曲線の例 ※耕起深が変わるとpHも変化するので留意が必要

また、転炉スラグを過剰に施用(土壌pH7.5を大きく上回る)すると作物の生育に悪影響が出る場合があります。いったんpHを上げすぎると下げることは容易ではありません。導入の際には事前に小規模の確認試験を行うなど、慎重な取り進めが必要です。

なお、施用に当たっては、必ず粉状タイプ(ミネカル粉状2号)を使用してください(図3)。

ミネカル粉状2号
図3.ミネカル粉状2号の概要

転炉スラグには殺菌効果がなく、pH矯正を行っても萎凋病菌は死滅しません。発生歴のある圃場での農作業は最後に行い、機械類を良く洗浄して汚染土の移動による発生圃場の拡大を防いでください。

萎凋病の発生が甚大である場合(発病度70以上が目安)や萎凋病以外の病害には効果が期待できないため、土壌消毒などの対策を行う必要があります。