YES!cleanの取り組みが始まった当初から地域ぐるみで実践してきたのが、びらとりトマトの生産地。平取町トマト・胡瓜部会の部会長の松原邦彦さんと、JAびらとりの藤本義明さんにお話を聞きました。
この記事は2022年8月1日に掲載された情報となります。
平取町 トマト・胡瓜部会 会長 松原 邦彦さん(写真右)
JAびらとり 営農生産部 次長 藤本 義明さん(写真左)
つくりやすさより、おいしさ
びらとりトマトの栽培は50年前の1972年から、6戸の農家で試験的に取り組んだのが始まりでした。販路が道外に広がったのは1985年に元祖・桃太郎トマトが登場して以降のこと。実が硬くて長距離輸送に向き、食味もいいことから評判を呼び、出荷量が徐々に拡大。現在は151戸のトマト農家で42億円を売り上げる、大玉トマトの一大産地となりました。
「いま栽培しているのは、桃太郎シリーズ23品種の内、5品種だけ。つくりやすい品種ではなく、おいしい品種にこだわりました。みんなで何度も食味試験を重ねて絞った5品種です」と言うのは、JAびらとり営農生産部の藤本さん。
「土壌病害を避けるため接ぎ木をするところもありますが、びらとりトマトは自根栽培。品種本来の味を大事にしたいから、接ぎ木はしません」とあくまでおいしさにこだわり、栽培しています。
農薬は3割減、散布回数も厳守
平取町トマト・胡瓜部会はYES!clean(以下イエスクリーン)の表示制度(写真2)ができて間もない2003年に登録し、すでに20年近くクリーン農業を続けてきました。
農薬はJAで銘柄を決め、慣行栽培の3割減を徹底。散布は半促成栽培で14回、夏秋どりで17回までと決めています。
「蝦夷梅雨のような曇天続きの時は、灰色かび病の農薬をもう一回くらいやりたいな、と思うこともあるけどね。代わりに微生物農薬に変え、回数を気にしながら防除してますよ」
生産者の立場からこう話すのは、平取町トマト・胡瓜部会(写真3)の部会長を務める松原さん。トマトの残留農薬は平取町クリーン農業推進協議会が毎月調査し、結果は部会員全てにファックスで送られます。
「基準値を超過すると、産地全体に影響が及ぶことを意識するので、常に正確な作業をしなければならないと思っています」
農薬や肥料を使った時は、その都度、JAに栽培履歴を提出。ほかの作物からのドリフト防止にも気を配り、他作物のヘリ防除の際はトマトのハウスを全て閉めてから行うなど、地域全体で対策しています。
栽培終了後の土壌消毒も薬剤を使わず、フスマ(小麦の表皮)を散布してシートで覆う土壌還元消毒や、蒸気や熱水などを使う方法を採用しています。和牛や軽種馬のたい肥(写真4)を用いた土づくりも欠かせません。
「イエスクリーンの基準を守れば、そのまま環境保全型の農業になっている。良い取り組みだけに、もっと広く認知されて欲しい」と藤本さん。
松原さんも「コロナ禍以前は札幌のスーパーに行って対面販売をしていましたがイエスクリーンを知らない人も多く、もう少し認知度が上がってほしいね」と今後の展開に期待を寄せます。
「一個のトマトができるまでには約120日必要です。その間、水管理に肥料管理、葉を取り、脇芽をかくといった、多くの作業を行います。それらの作業は一つでも欠かせば、いいトマトにならない。たかが一個のトマトとはいえ、そこには農家の努力の結晶が詰まっています」と松原さん。環境にやさしい生産物が求められる中、びらとりトマトのクリーン農業への取り組みはますます注目を浴びていきます。