生産性向上技術

転炉スラグによるホウレンソウ萎凋病対策

キーワード:ホウレンソウ品種品種技術転炉スラグ
転炉スラグによるホウレンソウ萎凋病対策
この記事は2017年2月1日に掲載された情報となります。

ホクレン 農業総合研究所 営農支援センター 営農技術課

 

POINT!
転炉スラグにより土壌pHを7.5程度に上昇させることで、副次的にホウレンソウ萎凋病の被害を軽減できます。

※アグリポート創刊号「みんなの取り組み広場」で紹介した試験の続報です。

 

ホウレンソウの連作畑では、夏場のホウレンソウ萎凋病の発生が深刻な問題となっています。萎凋病をはじめとした土壌伝染性フザリウム菌による病害は、土壌PHを上げることで発病を軽減できることが知られていますが、土壌PHの上昇は作物の微量要素欠乏を引き起こす可能性があります。

転炉スラグ(商品名:ミネカル粉状2号)は微量要素も含んでいるため、本資材を用いて土壌PHを上昇させても微量要素欠乏が生じにくくなります。この特性を生かしたホウレンソウ萎凋病を軽減する新たな技術が、東北農業研究センターから公表されました(平成27年2月)。

 

平成27年の取り組み

ホクレン営農支援センターではJAとまこまい広域、苫小牧支所営農支援室と連携し、北海道における技術の実用性を確認するため、転炉スラグ施用実証試験に取り組みました。

その結果、無施用区(土壌PH:5.2)では全ての株がホウレンソウ萎凋病を発病しましたが、施用区(土壌PH:7.5程度)は発病が半分程度に軽減しました(写真1)。また、作物の生育に悪影響は認められず、収量が大幅に増加しました。

 

写真1.効果確認写真(平成27年厚真町)
写真1.効果確認写真(平成27年厚真町)

 

平成28年の取り組み

函館、苫小牧、旭川、帯広の各支所営農支援室と連携し、現地実証試験に取り組みました。その結果、平成27年と同様PH7.5程度に矯正した際、生育に悪影響の出る例はなく、萎凋病の発病が軽減されました。また、平成27年に試験を実施したハウスでは平成28年もPHが7.5を維持しており、病害の発病軽減効果が持続しました。

一方で、普及に向けたいくつかの課題も明らかとなりました。

 

1.事前の作物病理診断が必要

ホウレンソウ萎凋病は転炉スラグを用いて土壌PHを上げると発病を軽減できます。一方、ジャガイモそうか病のように発病が助長される病害もあります。そのため、事前に作物病理診断を行い、転炉スラグ施用が適当か判断する必要があります。

 

2.各ハウスごとに適正な施用量の確認が必要

本技術では、土壌PHを7.5まで上げるために、適正量の転炉スラグを施用する必要があります。適正な施用量は原土PHや土性等により変わるため(図1)、事前に土壌サンプルを採取し、緩衝能曲線を作成して施用量を決定する必要があります。

 

図1. 原土pH が同程度でも適正施用量が異なる例
図1.原土pHが同程度でも適正施用量が異なる例

 

3.現場での効果確認試験実施

本技術導入にあたってはJA、普及センター、ホクレン等と連携の上、最初にハウス1棟程度の小規模な確認試験を行ってから、以後の拡大の可否を検討する必要があります。

4.確認されていない技術的な課題の検討

本技術には効果の持続性、および高PHによる他の土壌病害への影響など推進上の技術的課題が残されています。当課では今後も関係研究機関と連携して、これら課題に対する検討を行い、生産者所得向上に貢献できる営農技術として普及に取り組んでいきます。

 

(営農技術課 丹羽 昌信)

 

写真2. 土壌pHが7.5を大きく超えてホウレンソウの芽が全く出ない事例
写真2. 土壌pHが7.5を大きく超えてホウレンソウの芽が全く出ない事例

 

 

[施用量を誤った事例]

転炉スラグを誤って適正量以上投入し、土壌pHが7.5を大きく上回った場合、作物の生育に悪影響が出る場合があります。その対策としては深耕作業等がありますが、いったんpHを上げすぎると低下させることは容易ではありません。

このように本技術導入時には注意点がありますので、興味をお持ちの際はJAを通じてホクレン支所 営農支援室までお問い合わせください。