栽培

粘土質圃場では無代かき水稲栽培が後作大豆を増収させる

キーワード:大豆水稲無代かき水稲栽培粘土質圃場

大豆畑

この記事は2023年2月1日に掲載された情報となります。

農研機構北海道農業研究センター 寒地野菜水田作研究領域 野菜水田複合経営グループ 上級研究員 鮫島 啓彰

農研機構北海道農業研究センター
寒地野菜水田作研究領域 野菜水田複合経営グループ 上級研究員 鮫島 啓彰

Profile:鮫島 啓彰(さめじま ひろあき)さん。北海道大学大学院農学研究科博士後期課程修了(2004年)。国際農林水産業研究センター、茨城県農業総合センター農業研究所、神戸大学、名古屋大学での勤務を経て、2019年4月から現職。49歳。千葉県出身。
POINT
●粘土質圃場では、水稲栽培で代かきしないことが、後作の大豆増収につながります。

無代かき水稲栽培の後作大豆への影響を生産者圃場で調査

無代かき移植や乾田直播といった無代かき栽培は、水稲の省力化技術として着目されていますが、田畑輪換体系に導入する際は後作の畑作物への影響も気になります。そこで、水稲栽培時の代かきの有無で後作大豆の収量が変化するかを、無代かきによる水稲の移植と乾田直播が行われている、岩見沢市の生産者圃場で調査しました。

岩見沢市内の代かき移植水稲後の圃場(16筆)、無代かき移植水稲後の圃場(14筆)、乾田直播水稲後の圃場(17筆)で大豆を栽培したところ、これら47圃場では、代かき移植水稲後と比較して、無代かき移植水稲後で約17%、乾田直播水稲後では約15%の大豆増収が確認されました(表1)。このことは、田畑輪換体系では水稲栽培時に代かきしないことが、後作大豆の増収につながることを強く示しています。

全47圃場における大豆収量と粘土割合が高い34圃場における大豆収量と収量構成要素 ※収量の( )内は代かき移植を100とした百分比
表1.全47圃場における大豆収量と粘土割合が高い34圃場における大豆収量と収量構成要素 ※収量の( )内は代かき移植を100とした百分比

また、これら圃場では、大豆播種前に2〜4回の耕起作業が行われていました。すなわち、このように複数回、耕起しても前年の無代かき水稲栽培の影響が継続するということです。

後作大豆の増収効果は粘土質圃場で大きい

粘土割合が低い圃場では、代かきの有無による大豆の収量差は確認できませんでした。しかし、代かき移植水稲後では粘土割合が増えるほど収量が低下したのに対し、代かきを行わなかった場合には粘土割合が増えても収量低下は起こりませんでした(図1)。粘土割合が高い34圃場に着目すると、代かき移植(10筆)と比べ、無代かき移植(9筆)と乾田直播(15筆)で27%以上の増収となりました(表1)。この増収率は、全47圃場での15〜17%より大きいことから、粘土質圃場では無代かき水稲栽培導入による後作大豆の増収効果が大きいと言えます。

全47圃場における土壌の粘土割合と大豆の相対収量の関係 ※相対収量:各年の平均収量を100とした割合(%)
図1.全47圃場における土壌の粘土割合と大豆の相対収量の関係 ※相対収量:各年の平均収量を100とした割合(%)

粘土質圃場の土壌物理性に代かきが大きく影響

粘土質圃場で代かきを行うと、土壌の排水性(土壌中の大きな孔隙の体積割合)と保水性(植物根が吸収できる水を保持するのに適した大きさの孔隙の体積割合)が低くなっていました(図2、3)。更に、土壌も固くなっていました(図4)。代かきによってもたらされる、このような土壌物理性の変化は、畑作物にとっては弊害になります。

図2.粘土割合が高い34圃場における土壌の排水性比較※排水性:土壌中の大きな孔隙の体積割合(%)
図2.粘土割合が高い34圃場における土壌の排水性比較 ※排水性:土壌中の大きな孔隙の体積割合(%)
図3.粘土割合が高い34圃場における土壌の保水性比較※保水性:植物根が吸収できる水を保持するのに適した大きさの孔隙の体積割合(%)
図3.粘土割合が高い34圃場における土壌の保水性比較 ※保水性:植物根が吸収できる水を保持するのに適した大きさの孔隙の体積割合(%)
図4.粘土割合が高い34圃場における土壌の固さの比較※土壌の固さ:深さ1~50㎝の貫入抵抗値(kPa)の平均値
図4.粘土割合が高い34圃場における土壌の固さの比較 ※土壌の固さ:深さ1~50㎝の貫入抵抗値(kPa)の平均値

表1のように、粘土質圃場では、代かきを省略すると大豆の個体数が増加しました。個体当たり莢数や一莢粒数については、代かきの有無による明瞭な差は見られませんでしたが、個体数の多さを反映して、総粒数は代かき移植水稲後に比べて無代かき移植や乾田直播水稲後で多くなりました。更に、百粒重も代かきをしない場合に大きくなったことも注目に値します。

無代かき水稲栽培では、粘土割合が高い圃場でも、柔らかく、排水性も保水性も高い(大豆栽培に適した)土壌に保つことができるため、数が増えた豆粒のつひとつを大きく実らせることができたと考えています。田畑輪換で後作に大豆栽培を予定する際の参考にしてください。