病害虫を防ぐため時間・労力が必要とされる種馬鈴しょ生産の現場について、十勝農業協同組合連合会の上田裕之さんに聞きました。
この記事は2021年2月1日に掲載された情報となります。
十勝農業協同組合連合会
農産部 部長 上田 裕之さん
安全性確保のための徹底管理
十勝農協連の管内では19農協、279戸の生産者が、1戸当たり平均7.5haの圃場で種馬鈴しょを生産しています。これまでに種馬鈴しょの圃場でジャガイモシストセンチュウは一度も確認されていません。また、管内の一般生産者の種子更新率は2019年調べで96・6%と道内でも非常に高い水準を維持しています。
「ここまで管理を徹底しているのは、1947〜49年にウイルス病(葉巻病)が発生した際に行った『環境が良い場所での種馬鈴しょ圃場の団地化』『早期の茎葉処理』『種子更新の徹底』の対策を現在も維持しているからです」と上田さん。
また、原原種の清浄性が、その後の原採種生産にとって重要なことから、種苗管理センター十勝農場周辺の圃場の種子更新や防除は、協議会を組織して費用助成するなど、特に徹底しているそうです。
生産者の努力で安全性を維持
植物防疫所による種馬鈴しょの圃場検査は生育期間中に3回あります。合格率が高い農協は1回目と3回目の検査が書類審査のみとなりますが、十勝農協連では検査を行わない農協に職員が出向き自主的に指導検査を行っています。更に、茎葉処理時期に4回目の圃場検査も実施。生産者は検査に合わせ、頻繁に圃場で病気の恐れのある株の抜き取りを行っており、この作業は地域の生産者同士が共同で行うことで成り立っています。
十勝農協連の種馬鈴しょ生産の流れ
01 土壌の検診
植え付け前に、ジャガイモシストセンチュウがいないか顕微鏡で確認します。
02 植え付け
種馬鈴しょを切断する際、切断するごとに切断刀を消毒しながら行う。
03 アブラムシの調査
アブラムシ調査のため、管内47地点に黄色水盤(誘因トラップ)を設置し、6月20日から5日間隔でサンプルを回収、種類別にアブラムシ数を計測しJAに情報提供します。
04 抜き取り
地域の生産者が共同で、生育がほかより悪く罹病の恐れがある株を全て抜き取ります。
05 圃場検査
植物防疫所による圃場検査が3回(合格率の高い農協に関しては1回目と3回目は十勝農協連の指導検査)、十勝農協連の自主的な検査が1回入ります。
06 早期茎葉処理
品種の早晩生に合わせ、7月下旬から8月中旬にかけて茎葉処理を行います。
07 収穫
8月下旬から9月中旬に収穫します。早期茎葉処理で未熟な状態で収穫するため、丁寧に扱います。
08 風乾
収穫した種馬鈴しょは、生産者が2〜3週間かけて風乾させてから出荷されます。
09 冬期の検査
ウイルス病について、原種圃全筆と委託採種圃の一部から収穫後の塊茎サンプルを回収し、冬期間に温室に植え付けてエライザ法により次代検定を行います。黒あし病は原種圃全筆についてPCR法により次代検定を行います。
日本の馬鈴しょ生産を支える
そのように作業負担が大きい中、種馬鈴しょ生産を続ける生産者について上田さんはこう話します。
「出荷する種馬鈴しょには生産者名が記されます。同じ地区の仲間に配られる場合もあり、プレッシャーも相当なものでしょう。高齢化や労働力不足のため生産が続けられなくなる方もいますが、続けている方にとっては、優れた技術をもって種馬鈴しょを生産しているというプライドと、自分たちが日本の馬鈴しょ生産を支えているという責任感がモチベーションとなっていると思います。地域に貢献したいという思いを持った新たな生産者が仲間に加わってくれることもあります」
十勝農協連では生産者の省力化のため、種馬鈴しょ定植の際に使用するプランターを開発(下記参照)。このように技術的な面でも負担軽減を図り、安全な種馬鈴しょ生産を維持できるように努めています。
新たなプランターの開発で種馬鈴しょの植え付けを省力化
種馬鈴しょの植え付けは、切断刀を都度消毒しながら行います。従来は植え付け前に4人で切断刀を消毒しながらの切断の作業に1週間ほどかかり、人員確保も課題となっていました。その作業を省力化するため、十勝農協連では「切断刀消毒機能付きカッティングプランター」を十勝農機、出光興産、大村製作所(埼玉県)、十勝農試と協力して開発しました。
自動で切断刀を消毒しながら植え付けできるため、機械に乗る人数は1人に、スピードも2倍になり、大幅な効率化を図ることができました。これまでに87台を導入。2軒ずつで共同利用していると仮定すると管内の種馬鈴しょ生産者の6〜7割に普及していることになります。今後、このプランターは十勝以外の地区へも紹介していく予定です。