植物防疫法上の指定種苗である種馬鈴しょは、厳しい検査が課せられています。生産の仕組みについて、ホクレン種苗課の守屋さんに聞きました。
この記事は2021年2月1日に掲載された情報となります。
ホクレン農産事業本部
種苗園芸部 種苗課
技師 守屋 明博
馬鈴しょは種苗の健全性が重要
種苗の健全性が特に重要な作物を「植物防疫法上の指定種苗」といい、馬鈴しょもその一つです。そのため、植物防疫官による検査に合格しないと種苗として移動できないことになっています。その理由を守屋さんは次のように話します。
「種馬鈴しょが罹病すると消毒が極めて困難。その結果、病害虫の被害によって収量に及ぼす影響が大きいからです。また、種子繁殖は数百倍から数千倍に増殖するのに対し、馬鈴しょは10倍。増殖に時間を要することも理由です」
種馬鈴しょはその増殖率の低さから原原種、原種、採種の3段階に分けて生産(図1参照)。作付計画に対して種馬鈴しょが不足する地域では他の地域に委託するなどして賄っています。また、道内で生産された種馬鈴しょの約1割は道外へ移出されています。
負担が大きい種馬鈴しょ生産
健全な種馬鈴しょを生産するため、3回の圃場検査が義務付けられています。
「生産者は検査の前に、罹病している可能性がある株を抜き取りますが、圃場を歩いて直接目視で確認しなければならず、時間と労力がかかる負担の大きな作業です。そのため道内の種馬鈴しょの生産者は高齢化や労働力不足などが原因で減少傾向にあります」
近年特に問題となっているのは、ジャガイモシストセンチュウ(Gr)の発生地域拡大です。古くから確認されているGrの他に、2015年にジャガイモシロシストセンチュウ(Gp)も確認されました。GrやGpが一度発生してしまった圃場では、種馬鈴しょを作ることはできません。道内では、毎年不合格になっている圃場が出ています。
「Grの抵抗性品種として『キタアカリ』『とうや』『きたかむい』などが開発されている一方、主要な品種である『男爵薯』や『メークイン』は抵抗性がありません。しかし、種馬鈴しょの生産は一般生産者からの受注生産であるため、種苗管理センターやホクレンが作る品種を指定することはできません。なお、Gpにはまだ完全な抵抗性品種はありません」
生産を守るために協力を
生産者が減少傾向にある中、今後種馬鈴しょを十分に生産できなくなれば、馬鈴しょの面積が維持できなくなり、輪作体系にも影響を及ぼしてしまいます。
「そうならないために一般生産者にお願いしたいことは、計画的な生産です」と守屋さん。2019年に原原種の配布要綱が改定され、原原種の配布申請時には長期計画(3カ年分)を提出することが義務付けられました。
「また、出来るだけ抵抗性品種を作付けすること、必ず種子更新を行うことも、需給調整を計画的に進めるだけでなく病害虫の蔓延防止にもなります。ぜひ、北海道の馬鈴しょ生産を守るためにご理解とご協力をお願いします」
馬鈴しょの生産を続けるために
❶計画的な生産
2019年の要綱改定で、原原種の配布申請時には長期計画(3カ年分)を提出することが義務付けられ、数量を変更する際には理由を提示しなければならなくなりました。
❷種子更新
必ず種子更新を行い、検査に合格して出荷された種馬鈴しょを使用しましょう。そうすることで計画的な作付けが可能になるだけでなく、土壌病害虫の蔓延防止にもつながります。
❸ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種を作付け
抵抗性品種の積極的な作付けが求められています。2019年の要綱改定には、配布数量50袋未満の品種の原原種の配布停止、非抵抗性品種の配布上限設定の項目が新たに加わりました。