北海道で作付けが増えているさつまいも。その魅力と可能性、今後の課題などを、北海道立総合研究機構でさつまいもの研究と普及に取り組んでいる髙濱さんにお聞きしました。
この記事は2022年12月1日に掲載された情報となります。
北海道立総合研究機構 上川農業試験場
研究部 生産技術グループ
主査 髙濱 雅幹さん
道産さつまいもは今の嗜好にマッチ
北海道で最初にさつまいもづくりが本格化したのは厚沢部町です。「コガネセンガン」という皮の白い焼酎原料用のさつまいもでしたが、近年は道内あちこちで皮の赤い青果用のさつまいもづくりが行われています。
北海道産と道外産、同じ時期に収穫した芋で比べると、北海道産はでん粉質が少なく、でん粉の粒も小さいのが特長です。そのため熱を加えると、でん粉が容易に分解して糖分に変化し、しっとりと甘くなります。近年、ホクホクしたさつまいもより、ねっとりした食感が好まれつつありますが、北海道のさつまいもはこうしたニーズにぴったり合致しているといえるでしょう。
さつまいもは収穫後、貯蔵中に熟してくるのですが、道外産は気候変動の影響で熟す時期が遅れ、干し芋の加工の時期も遅くなっています。北海道産の干し芋を先行して出せたら流通の可能性が高くなります。最近ブームのわらび餅も、実はさつまいもでん粉で作られていることが多いです。道産の芋のでん粉は保水性が高く、わらび餅の滑らか感とマッチするはずです。
青果用としてだけではなく干し芋やお菓子などの加工品、でん粉や焼酎の原料、また紫芋は色素原料など幅広い用途で使われる、さつまいも。これだけ可能性のある作物はそうないのでは、と思うほどです。
定植後、手間がかからないのも利点
現在は、一部地域を除き全道で生産されています。定植は5月下旬〜6月中旬、収穫は9月中旬〜10月中旬で、栽培期間は約130日。防除もほとんどいらないので、手間がかかりません(図1)。
気を付けなくてはならないのは収穫時(写真1)です。馬鈴しょのような感覚で扱うと、皮に傷が付きやすく、傷口から菌が侵入して腐敗してしまいます。それを防ぐために行うのがキュアリング。皮のむけたところに、かさぶたのようなものを作り細菌を入りにくくする処理です。道外の産地は専用施設を持っていますが、道内ではビニールハウス内に芋のコンテナを入れ、ビニールで覆って太陽光で蒸し込むことで代用することが多いです。キュアリング後は13〜15℃に保てば、翌春まで貯蔵が可能です。
育苗から貯蔵までの一貫体制が理想的
道外の産地などでは病害虫が広がり土壌消毒が常態化していますが、原因となるサツマイモネコブセンチュウは北海道では露地越冬できないため、防除はほとんど必要ありません。
一方で、全国的に拡大しつつある基腐(もとぐされ)病は近年、北海道でも発生報告がありました。おそらく苗に菌が付着し汚染されていたことが考えられます。苗は消毒してから定植する必要があるでしょう。
北海道での栽培におすすめの品種は、早期肥大性に優れた「シルクスイート」や「ベニアズマ」。このほか昨年の冬にリリースされたばかりの「ゆきこまち」と、干し芋専用品種で果肉がオレンジ色の「あかねみのり」もあります。
定植には専用機械(写真2)が必要なこと、定植や収穫の時期が水稲の作業と重複するなど、課題もありますが、さつまいもはヒルガオ科の作物で小麦や豆類などの輪作体系に組み込むことも可能です。今後の作付け拡大には、道内での育苗体制の確立や貯蔵施設の確保が必要です。育苗から貯蔵まで一連のサイクルを道内で完結させ、北海道が全国有数のさつまいも産地となることを期待しています。