この記事は2021年8月1日に掲載された情報となります。
道総研 中央農業試験場
病虫部予察診断グループ 研究主幹 小松 勉
Profile:神奈川県出身、北海道大学大学院農学研究院後期課程修了(農学博士)。中央農業試験場、花・野菜技術センター、上川農業試験場、農業研究本部を経て2020年より現職。
POINT
●種子塗抹(とまつ)処理と適期に適深の播種、根雪前の薬剤散布の組み合わせで、コムギなまぐさ黒穂病の発生を抑えましょう。
秋播き小麦に発生するなまぐさ黒穂病は、2016年に全道で多発し、約1000haが廃耕になるなど甚大な被害をもたらしました。本病は、小麦の子実内部が本来のでん粉やタンパク質ではなく、生臭い悪臭を放つ、病原菌の厚膜胞子(こうまくほうし)で充満します(写真1)。そして、収穫時に発病粒が砕けて厚膜胞子が健全粒に付着すると、収穫物全体が異臭麦となり、出荷できない状態になります。
本病防除に対する要望は高く、重要な病害ですので、緊急的に防除法の試験をしました。
北海道の病原菌は道外のものと種が違う
道外におけるコムギなまぐさ黒穂病の病原菌はティレティア・カリエスとされ、種子伝染し、深く播種すると発病が助長されます。しかし、道内の病原菌はティレティア・コントロベルサという別種でした。
この菌は土壌伝染、特に地表面にある厚膜胞子により感染し、播種時期が遅れるほど、また浅く播種すると発病が助長されます。このため、適期に適切な深さ(2〜3cm)で播種することにより感染が抑制されることを明らかにしました。
感染には積雪が必要
ティレティア・コントロベルサは降雪前に厚膜胞子が発芽し、積雪下で小麦に感染します。そのため栽培中に積雪のない春播き小麦では発病しません。しかし、初冬播き栽培はリスクがあるので注意が必要です。
道内で栽培されている秋播き小麦はすべて発病する
コムギなまぐさ黒穂病の発病程度は品種で異なるものの、道内で栽培されている秋播き小麦の主要品種はすべて発病します(図1)。また、秋播き栽培のライムギでわずかに発生し、ライコムギでも発病します。一方、大麦やイネ科牧草では発病しません。
効果のある薬剤と散布適期
ベフランシードフロアブルの種子塗沫処理(5ml/乾燥種子1kg)は、一定の効果が得られ、防除対策として有効です(図2)。
また、フロンサイドSC1000倍液及びチルト乳剤750倍液の根雪前散布は、本病の防除に有効です。特にフロンサイドSCの効果が高いのでおすすめします。フロンサイドSCの散布適期は10月下旬〜11月中旬、チルト乳剤の散布適期は11月上旬〜中旬です(図3)。散布適期前や後の時期では防除効果が劣りますので、散布適期を守ることが重要です。
耕種的防除と薬剤の組み合わせによる防除効果が高い
適期播種、適切な深さでの播種にベフランシードフロアブルの種子塗沫処理及びフロンサイドSC1000倍液の10月下旬〜11月中旬散布を組み合わせることにより、本病の発生をほぼゼロに抑えることが可能です(図4)。本技術を活用し、コムギなまぐさ黒穂病の発生を抑えていきましょう。