催芽

ながいもの安定生産に向けた催芽法改善

この記事は2021年4月1日に掲載された情報となります。

道総研 十勝農業試験場 研究部 生産技術グループ 研究主任 八木 亮治

道総研 十勝農業試験場 研究部 生産技術グループ 研究主任 八木 亮治

Profile:北海道出身。北海道大学理学研究科修了。花・野菜技術センター勤務を経て2020年より現職。

POINT
●ながいもの催芽湿度80%で、切りいもの腐敗が減少。萌芽性と収量性が向上し、収益アップを見込めます。

ながいもの安定生産に向けた催芽法改善

北海道ではながいもの栽培期間を確保するため、切りいも(種苗)にあらかじめ芽を形成させる催芽処理を施してから、畑に植え付けるのが般的です。催芽時の湿度は切りいもの腐敗対策として、80%程度が良いとされています。しかし、植え付け時の芽が大きいほど萌芽(ほうが)(植え付け後に芽が地上部に出てくること)が早く、栽培期間を長くできるため、産地では大きな芽を短期間で作ることができる高湿度で行うことが多くなっています。そこで、催芽の湿度(100%と80%)が、ながいも生産に及ぼす影響を検証したところ、湿度80%は切りいもの腐敗抑制に加え、萌芽が早くて揃いも良く、収量も向上することが明らかになりました。

催芽湿度が萌芽に及ぼす影響
写真. 催芽湿度が萌芽に及ぼす影響

催芽湿度80%のメリット

①切りいもの腐敗の減少
催芽時の切りいも腐敗の主要因である青かび病は水分が多いと発生しやすいため、湿度100%と比較し、湿度80%では菌の活動を抑制でき、腐敗率が低くなると考えられます。

②萌芽性と収量性の向上
湿度80%では萌芽期(約40%が萌芽した日)が湿度100%より約2週間早まり、6月中旬にはほぼ100%萌芽します(図1)。不萌芽(腐敗など明らかな障害がないのに芽が地上部に出てこず欠株となること)は大きな減収要因ですが、湿度100%では2割程度発生します。一方、湿度80%ではほぼ発生せず(写真)、その結果、規格内収量で湿度100%より約15%多収となり年次変動も小さくなります(図2)。つまり、湿度80%は安定多収につながる催芽法と考えられます。

催芽湿度が萌芽率および萌芽期に及ぼす影響
図1.催芽湿度が萌芽率および萌芽期に及ぼす影響 ※萌芽期:約40%が萌芽した日
催芽湿度が規格内収量および不萌芽率に及ぼす影響
図2.催芽湿度が規格内収量および不萌芽率に及ぼす影響

③経済性の向上
粗収益を試算したところ、湿度80%での催芽は湿度100%よりも10a当たり約21万円の増益となります。湿度80%では植え付けに適する芽の大きさになるまで湿度100%よりも1〜2週間長くなるため、催芽時の光熱費も増加しますが、増額分は10a当たり405円と極わずかであり、メリットの方がはるかに大きいことが分かりました。

湿度80%催芽導入における作業体系

春掘りがある産地ではキュアリング期間と催芽期間を変えることで、また、春掘りがない産地では、切りいも調製作業を3月下旬に早めることで大きな作業変更なく湿度80%催芽を導入できます(図3)。湿度管理は催芽庫等に湿度計を設置し、換気等で湿気を外に出すことにより、日の平均として80%を目指してください。

提案する催芽法と作業体系
図3.提案する催芽法と作業体系

損して得取れ

催芽湿度を高めて急速に芽を作るよりも、湿度を下げてゆっくり芽を作る方が、結局は萌芽が早く、不萌芽も無くて安定多収となります。まさに「損して得取れ」です。作業体系をやや変更するだけで対応可能であり、また、高収益性作物で経営メリットが非常に大きいことから、ぜひ導入を検討して欲しい技術です。