農業は、同じ時期に同じカネとモノを使っても、作業のやり方一つで大きく収量が変わりフトコロにも差がついてしまうものです。その差はどこで生まれるのでしょうか。小麦の安定多収のために、ベテラン農家の「ワザ」から播種作業のやり方を学んでみましょう。
この記事は2020年8月1日に掲載された情報となります。
一般社団法人 北海道農産協会 業務部 技監 髙橋 義雄
Profile:岩手県出身。北海道で農業改良普及員として十勝、空知、北見などで主に畑作を担当。2013年より現職。
POINT
❶安定多収のためには、播種床を締め、適切な播種深度と播種量が重要です。
播種床を締める〜こぶしで畑の締まりを調べてみよう〜
小麦の播種床は、締まった畑より、砕土・整地をしっかりしてフカフカな畑の方が出芽も揃い、その後の生育も良いと思う農家は多いようです。しかし、小麦は大豆間作小麦のようにバラマキしても、湿り気や温度条件さえ整えば出芽します。ましてや、土に少しでも隠れてさえいれば、確実に芽は出てくるのです。
問題なのは、フカフカな畑にし過ぎてトラクターや播種機の重さで知らず知らずのうちに深播きになってしまうこと。そうならないために、播種床をしっかり締めてトラクターや播種機の重さで沈まないようにするための工夫が大切です(写真1)。
小清水町の加藤さん(故人)は、このことにいち早く気が付き、パワーハローとウェッジリングローラーの組み合わせで砕土・整地を行っていました。更に、種子が深播きにならないよう、トラクターの後輪はダブルタイヤ、フロントには自前のローラーを付け、ローラーとトラクターの前輪と後輪の幅がちょうど播種機の幅と一致するように工夫していました(写真2)。また、別の農家では、ケンブリッジローラー利用による鎮圧を実施しています。いずれにしても、播種床はキッチリ締める方が播種の深さが均一になるのです(図1)。
播種深度〜深播きは、百害あって一利なし〜
播種深度の目安は約2cmです。それ以上深くなると、寒さが厳しい地域ほど2段根になりやすく(写真3)、出芽、生育もバラつき、何よりも穂の大きさ(一穂粒数)もバラついてしまいます。また、それより浅いと寒暖に関係なく除草剤の影響を受けやすくなります。播種床の土を締めることと播種機の調整(キャリブレーション)を怠ると収量ばかりかフトコロにまで響いてしまいます。
播種量〜過ぎたるは及ばざるがごとし〜
播種量の上限は、「きたほなみ」で約10kg/10a(255粒/㎡=千粒重40gとして)で十分です。いくら遅く播くからといっても、これ以上増やしても効果がないことは試験研究で実証済み。地域の平均的な播種時期に播種できれば、約6kg/10a(140粒/㎡)でも十分ですが、雑草の多い畑では少し多めに播く人が多いようです。いずれにしても、種子もただではないので「少ないより多い方が良い」という保険的な考えで播く必要はありません。
播種時期に心がけてほしいこと
播種時期は、何かとストレスが多いものです。小麦の前作は、馬鈴しょが多く、掘り取り作業の進み具合が気になるでしょうし、小麦の播種床の準備もあります。また、共同で播種機を使っていれば自分の希望どおりの順番が回って来るかも気になるし、何よりも天気の行方も心配です。さまざまなストレスを抱えながらの作業は、自然と集中力が分散されてしまいます。そのためにも事前に作業の順番やカンドコロを押さえておきましょう。それが失敗を未然に防ぐ最大の武器になります。