土壌改良 土壌凍結深制御技術による畑地の生産性向上

畑の生産力アップ!冬に土を凍らせる

キーワード:品種技術

畑の生産力アップ!冬に土を凍らせる

 

この記事は2018年12月1日に掲載された情報となります。

 

道総研 北見農業試験場 研究部 生産環境グループ 主査(栽培環境)小野寺 政行
(現 道南農業試験場 研究部 生産環境グループ 研究主幹)

 

profile:弘前大学農学部卒業後、平成3年より中央農試に勤務、北見農試などを経て、平成30年4月より現職。主に園芸作物や畑作物の土壌・肥培管理に関する研究を担当。

 

POINT!
●冬に土を凍らせることは(約30cm程度)、土壌の理化学性や作物の生産性にも良い影響を与えます。

 

十勝やオホーツクなどは、寒冷で積雪が少なく道内でも土壌凍結の多い地域ですが、1980年代後半以降、早い時期にまとまった雪が降ることで(初冬の積雪量増加)、深くまで凍らない年が多くなっています。

このため、馬鈴しょ跡地で野良イモ(収穫残のイモが翌年雑草化したもの)の増加を招き、後作物の生育阻害やシストセンチュウ、土壌病害等の拡大を防ぐための抜き取り作業が大きな負担となっています。その対策として、雪割り(写真1上)により深さ30㎝を目標に土を凍らせてイモを死滅させる技術と、これを支援する土壌凍結深推定計算システムが開発され※1、十勝地域を中心に急速に普及しています(推定普及面積5,000ha)。

その後の研究※2で、冬に土を凍らせることは、野良イモ対策としてだけでなく、土壌理化学性や作物の生産性(収量)にも良い影響を与えることが明らかになりましたので紹介します。

※1「土壌凍結深の制御による野良イモ対策技術」平成25年普及推進事項
※2「土壌凍結深制御技術による畑地の生産性向上」平成30年指導参考事項

 

雪割り

雪踏み
写真1.雪割り(上)および雪踏み(下)により土壌凍結を促進させる様子(通常、雪割りはV羽根、雪踏みはタイヤローラーを使用)

 

天然の断熱材である雪を、雪割りで「取り除く」、または雪踏みで「薄くする」と、土の熱が大気へ逃げ、土は凍ります。凍らせる深さは、雪割りや雪踏みの実施時期や回数を調節して制御します。

 

土壌凍結促進により土壌理化学性が向上

深さ30‌cmまで土を凍らせると、
春の土のこなれ(砕土性)が良くなり、耕うん回数を減らせる(図1)。
②低地土や泥炭土で透水性向上効果が得られる場合がある。
③凍結層が融雪水の浸透を抑えるため養分(窒素成分)がより多く残る(図2)。
などのメリットがあります。

 

図1.土壌凍結促進による砕土性向上効果
図1.土壌凍結促進による砕土性向上効果
※砕土率は土塊20mm以下の割合

 

図2.土壌凍結深と窒素残存率の関係
図2.土壌凍結深と窒素残存率の関係(2015/16年)
注1)窒素残存率(%)=融雪後の無機態窒素量(kg/10a)/前年11月の無機態窒素量(kg/10a)×100
注2)同一試験地における調査結果を線で結んで表示。青線は黒ボク土、赤線は非黒ボク土(低地土・泥炭土)を示す。

 

なお、これらの効果を発揮させるには、土壌凍結が深すぎてもダメで、深さ30‌cmを目標にすることがポイントです。凍結促進の手法としては、十勝地域で普及している雪割りだけでなく、オホーツク地域で行われている雪踏み(写真1下)でも同様の効果が得られます。

 

土壌凍結促進で畑の生産力がアップ

また、土壌の理化学性などの性質が総合的に改善されることで、土壌凍結を30‌cm程度まで促進した場合に各種作物の収量が向上しました。ただし、4月下旬に播種した直播てん菜では、天候不順時の地温上昇の遅れがマイナス要因となり、効果が表れにくいことがありました(図3)。

 

図3.土壌凍結促進が作物の生産性に与える影響
図3.土壌凍結促進が作物の生産性に与える影響
※凍結促進区:農試試験は短期除雪区の3カ年の結果、現地実証試験は最大凍結深が30~40cmの試験地の結果のそれぞれ平均値
※棒グラフ上の数値の右上に添えた*、**はそれぞれ5%、1%水準で有意差のあることを示す。

 

適用する地域と留意点

●本技術はオホーツク・十勝の他、12〜2月の平均気温がマイナス5℃以下の地域に適用できます。ただし、多雪地帯では窒素溶脱を抑制する効果が少なく、生産性向上効果が小さくなる場合があります。

●多肥栽培は土壌凍結促進による生産性向上効果を小さくし、品質低下(てん菜根中糖分、馬鈴しょでん粉価等)や軟腐病助長などの弊害を招く恐れがあります。窒素成分は北海道施肥ガイドを参考に、地力に応じた適正量を施肥することが大切です。

●土壌凍結を促進すると、融雪後の地温上昇と土の乾きが遅れるため、早期(4月中旬以前)に播種する作物にはこの技術の導入は避けてください。

凍結深を測定する方法や、地域や作業時期等から推定するシステムの活用などについては、お近くの普及センター、試験場などにお問い合わせください。