牧草など高能力品種開発と高品質種子供給への取り組み

キーワード:キリタップクンプウセンプウセンリョク牧草
クンプウ、センプウ
写真1. クンプウ、センプウ

期待の牧草新品種と、品種開発から種子の供給、普及に至るまでの取り組みを紹介します。

この記事は2022年12月1日に掲載された情報となります。

ホクレン畜産生産部 自給飼料課

配合飼料や肥料・農薬など、生産資材が高騰し、これまで以上に自給飼料の増産と利用、緑肥など有機質の有効活用が求められています。生産コスト低減だけでなく、SDGsの観点でも重要です。

待望のチモシー新品種「センプウ」&「センリョク」

北海道は“チモシーランド”と言われるほど牧草ではチモシーが最も多く栽培されています。ここでご紹介するのは、2023年および2024年から新たに供給が始まる新しい2品種です。自給飼料生産に“旋風(せんぷう)”を巻き起こし、大きな“戦力(せんりょく)”となることが期待されます。

極早生品種「センプウ」

2023年供給開始予定(ホクレン・北見農業試験場共同育成品種)の新品種です。

現品種「クンプウ」に代わる新品種で、実に38年ぶりのリニューアル。「クンプウ」に比べ収量性はもちろん、斑点病抵抗性に優れます。耐倒伏性は「クンプウ」よりやや優れ、競合力が強くマメ科牧草との混播適性に優れるのが特長です(図1、写真1)。

センプウの乾物収量
図1. センプウの乾物収量 公的試験2016-2017平均 数字はクンプウを100とした総体指数

予告 中生の晩品種「センリョク」

2024年供給開始予定(ホクレン・北見農業試験場共同育成品種)で、現品種「キリタップ」の後継品種です。収量性や耐病性など、牧草に求められる全ての項目において「キリタップ」を上回る能力を保持。それに加えて、低消化性繊維(Ob)含量が低く、可溶性炭水化物(WSC)含量が高いなど、極めて栄養価が優れることも大きな特長です(写真2、図2、3、4)。

キリタップ、センリョク
写真2. キリタップ、センリョク
センリョクの乾物収量
図2. センリョクの乾物収量 公的試験2018-2019平均 数字はキリタップを100とした総体指数
センリョクのOb含量
図3. センリョクのOb含量(北見農試、ホクレン十勝、2018~2019)
センリョクのWSC含量
図4. センリョクのWSC含量(北見農試、ホクレン十勝、2018~2019)

より優れた品種の開発へ

ホクレンでは、公的機関や民間が開発した品種を扱うだけでなく、優良で能力に優れる独自の品種開発に取り組んでいます。半世紀以上にわたり牧草、飼料用トウモロコシ、緑肥作物の品種開発体制を整え、技術者を養成しており、現在、5名が業務に携わっています。

開発は、訓子府町に位置する訓子府実証農場を中心に行っています。夏の高温と冬の凍結がみられる厳しい環境が品種開発にうってつけで、約80‌haの採草地と140頭ほどの高泌乳牛1※を備え、実規模での実証栽培や、飼養試験により実際の利用場面に即した評価も行っています(写真3、4)。更に、全道各地に試験圃場を設け(写真5)、土壌や気象条件の異なる数多くの場所で評価することで、より優良な品種開発につなげています。品種開発には多くの年月がかかりますが(図5)、これまで開発した品種は、牧草、飼料用トウモロコシ、緑肥作物を合わせて100品種以上になります。

訓子府実証農場全景
写真3. 訓子府実証農場全景
タイストール牛舎給与試験状況
写真4. タイストール牛舎給与試験状況
品種開発試験の様子(訓子府実証農場)
写真5. 品種開発試験の様子(訓子府実証農場)
品種開発の流れ(牧草)
図5. 品種開発の流れ(牧草)

こうした取り組みで得られた、栽培や生産に係るさまざまなノウハウや技術力は、実際の生産現場への普及に欠かせないだけでなく、「麦類を利用した同伴栽培技術」、「植生改善の取り組み」など新しいアイデア提案等にも役立っています。

※1 11,479kg/頭/年:2022年8月乳検データ

試験場との共同育成体制で効率的な品種育成と早期普及

また、2002年の北見農業試験場を皮切りに、北海道農業研究センター、酪農試験場、九州沖縄農業研究センターとの間で、牧草および緑肥作物について共同育成を行っています。試験場の持つ品種開発技術と、我々の持つ全道各地での試験体制や技術力、種子の供給体制を組み合わせることで、効率的な品種開発とスムーズな種子の供給・普及を実現することができます。これまで共同で育成された品種は表1のとおりです。

試験場との共同育成品種
表1. 試験場との共同育成品種

海外からの種子買い付けと現地での生産(増殖)

「導入品種」(図5参照)は海外の種苗会社から必要な品種・数量を買い付けします。一方で「育成品種」は、自前で市販用種子を生産(増殖)します。これを全て国内で行うとコスト高となるため、海外でも実施。少量の元種子(もとだね)(原種種子)までを国内で生産、それを欧州や北米など海外に輸出して大量に現地で生産(増殖)して輸入します(図6)。

牧草種子の生産と流通(育成品種の場合)
図6. 牧草種子の生産と流通(育成品種の場合)

このような種子の買い付けと生産は、一部を除いて当課の担当者が直接行っています。価格交渉や生産圃場の確認、生産国の新規開拓など、技術的な知識や経験、語学力が求められますが、有利な条件を引き出すことや、生産状況の適確な把握が可能となります。

高能力で高品質な種子を安定的に生産者の皆さんへ

仕入れた種子は、小樽市にある種子工場(写真6)に搬入され、国際標準(ISTA2※)に準じた検査で発芽率や純度等品質が確認されます。パッキングまでの製造ラインには、異物を除去する機能が備えられ、自動包装機で確実な種子量充填が行われるとともに、作業の効率化が図られています。

小樽種子工場
写真6. 小樽種子工場

また、種子は、品質を維持するため、定温・低湿倉庫において定量が備蓄され、高品質な種子を安定的にお届けする体制が整えられています。

このように、当課では品種開発から種子の買い付け、生産、輸入、加工、出荷に至るまでの業務を貫して行っています。

今後も責任を持って、高能力・高品質な種子を安定的に生産者の皆さんへお届けしてまいります。

※2 国際種子検査協会

ホクレンのたね- 飼料作物・緑肥作物 -
ホクレンの飼料作物や緑肥作物のたね、栽培技術に関する情報が満載です。ぜひご覧ください! https://www.hokuren.or.jp/seed/