弟子屈町植生改善プロジェクト

キーワード:自給飼料
植生調査の様子
写真1.植生調査の様子

弟子屈町で生産者と関係機関が連携して取り組んだ草地の植生改善は大きな成果を上げ、農業普及活動高度化全国研究大会で農林水産大臣賞を受賞しました。その取り組みについて、釧路農業改良普及センターでお話を伺いました。

この記事は2020年8月1日に掲載された情報となります。

釧路農業改良普及センター 主査 濱本 英晴 さん

釧路農業改良普及センター
主査 濱本 英晴 さん

地域を挙げて植生改善

弟子屈町では、牧草の草地更新率が4〜5%と低く、草地更新をしても5年で植生が悪化するなどの問題を抱えていました。そこで釧路農業改良普及センターでは、同町上仁多地区の生産者に呼びかけ弟子屈町植生改善プロジェクトを立ち上げ、12戸の生産者とJ‌A摩周湖、弟子屈町、雪印種苗株式会社、ホクレンとともに2011年に取り組みを開始しました。

当初、生産者から聞かれたのは「草地改善に取り組んでもどこまで所得に反映されるのか」「草地の実態や雑草の見分け方が分からない」など後ろ向きな声が大半でした。しかし、経産牛1頭当たりの所得が高い生産者の草地や経営データを見てもらうことで、「取り組めば所得が上がるんだ」と理解され動機付けになりました。

草地の現状を把握し見える化

まず生産者も牧草の見分け方を習得しながら全員で草地を歩き、牧草の割合で5段階に評価(図1)。すると、思っていた以上に雑草が多く(図2)、地区の35%の草地で更新が必要という現実が浮かび上がったのです。更にそれを色分けして落とし込んだ植生マップ(図3)で見える化。それでも草地更新にかかる負担を懸念する声が上がりましたが、草地更新の経費と1頭当たり原物給与可能量をシミュレーションできるエクセルシート「草ナビ」(図4)を独自に作成。ここでもメリットを見える化して意欲向上につなげ、生産者の計画的な草地更新を後押ししました。

草地の5段階評価法
図1.草地の5段階評価法
※目安となる牧草割合に沿って5段階を基本に評価するが、雑草の種類なども踏まえ、必要な場合はその中間のランク分けも実施。
上仁多地区全体の草種構成割合(2011年)
図2.上仁多地区全体の草種構成割合(2011年)
GISソフトで作成した植生マップ
図3.GISソフトで作成した植生マップ
草地更新シミュレーションソフト「草ナビ」
図4.草地更新シミュレーションソフト「草ナビ」

管理技術も共有し成果に反映

また、更新後の草地を長持ちさせる管理技術も重要です。地域の「草地の達人」はほかの生産者より長く7〜8年、牧草の割合が高い状態を維持しています。その方法は、「草地を保護するために地面から約10㎝と高めに牧草を刈ること」「適期施肥を行うこと」「土壌分析を行い肥料の成分や量を調整すること」です。

このプロジェクトでも上仁多地区の土壌に合わせたリン酸減肥タイプの、J‌A摩周湖専用のB‌B肥料をJ‌Aとホクレンの協力で作り、多くの生産者がそれで低減した費用を石灰資材の施用に充てるようになりました。

草地の植生改善を進めていくことでサイレージの栄養価が高まると、乳牛の過肥や分娩後の疾病が増えるという問題も発生。そこから飼料設計への意識につながり、配合飼料費が削減される効果も表れました。

取り組みは2017年まで7年間にわたって続けられ、草地更新率は約8%にまで増加。草地の維持年数も5年から7年に伸び、5年目以降は乳飼比にも反映されました(図5)。所得の増加として成果が表れ、草地改善の意識は現在も持続しています。生産者からは、「配合飼料を増やしていないのに乳量が増加した」「草ナビで更新費用から粗飼料の過不足まで分かるので、安心して取り組めた」という声が上がりました。

植生改善度合と乳飼比の変化
図5.植生改善度合と乳飼比の変化
※上仁多地区12戸(うち1戸はデータ無し)

地域連携が成功要因に

成功要因は、生産者のやる気はもちろんのこと、地域の関係機関が体となって取り組んだことだと濱本さんは言います。普及センターは関係機関への旗振り役となり、J‌Aと町は植生調査などでの人員確保や具体的な営農計画を立案。ホクレンは適正施肥提案や肥料の開発など、それぞれ役割を担いました。また、成果が出る途上の時期も定期的に地域懇談会を開き、調査分析により明らかになったことを共有したり、現段階での成果を示して生産者のモチベーションの維持に努めました。

地域連携の風土はプロジェクト終了後も持続し、ほかの業務にも良い影響を与えています。

「草地改善の取り組みは生産者人では難しいですが、これから全道で『草ナビ』を活用できる体制も整えられていくので、お近くの普及センターの畜産担当者に相談いただければ、雑草の見分け方の習得など、協力できます。まずは自分の草地の状態を把握するところから、取り組んでいただきたいと思います」