この記事は2022年10月1日に掲載された情報となります。
北海道立総合研究機構 酪農試験場
酪農研究部 乳牛グループ 研究主任 窪 友瑛
Profile:2014年岩手大学農学部獣医学課程を修了し、獣医師免許取得。2018年岐阜大学大学院連合獣医学研究科を修了し、博士(獣医学)取得。試験場において、乳用牛の繁殖および周産期病に関する研究に従事。
POINT
●牛群検定による、ケトーシス発生を警戒すべき農場および牛の把握方法と、発生低減のための飼養管理上のポイントを紹介します。
ケトーシス※発生は、乳量低下や廃用牛の増加、繁殖成績の悪化を引き起こします。発生予防や早期発見は、周産期管理で重要です。北海道では、2017年から牛群検定時にケトン体の一つ、βヒドロキシ酪酸(以下BHB)の測定を開始。これにより、大規模なケトーシス発生状況の把握が可能となりました。道総研 酪農試験場ではこの測定値を活用、ケトーシス発生を警戒すべき農場や牛の特徴を明らかにし、発生低減への対策をまとめたので紹介します。
※分娩後などのエネルギー不足時の体脂肪の分解過程等で生じる、「ケトン体」の過剰な蓄積で発症する食欲減退や乳量低下などを伴う疾病。
警戒すべき農場は「発生パターンが複合型」
牛群検定では、乳中BHB濃度が0.13mmol/L以上の牛は、高BHB牛(ケトーシスが疑われる牛)と定義されます。ケトーシス発生を減らすには、農場における高BHB牛の発生状況を牛群検定から把握しましょう。次の①、②のいずれかに当てはまる農場は、ケトーシス発生による生産性の低下を警戒してください。
①経産牛1頭当たり乳量が全道平均9300kg以上、かつ初回検定時の高BHB牛割合が11%以上
②分娩後6週目まで高BHB牛の発生割合が高止まりしている「複合型」発生パターン(図1)
①に該当する農場は、ケトーシス発生により牛群乳量が低下する結果に。また、②の発生パターンの農場は、牛群の中で「分娩前の過肥」と「分娩後の栄養不足」が同時に起きていると考えられます。このような農場は、ケトーシス発生が多いのはもちろん、乳成分値の異常やほかの周産期疾病の発生も多く、最も警戒すべきです。
警戒すべき牛は「分娩前に太っている」
ケトーシスを発症するリスクの高い牛の最も重要な特徴は「分娩前に太っていること」です。調査の結果、分娩前のボディコンディションスコア(以下BCS)が高いほど、ケトーシス牛の割合も増えることが分かりました(図2)。
警戒すべき分娩前BCSの基準は3.50以上。見方のポイントは、座骨から尾骨に伸びる尾骨靱帯が皮下脂肪で埋まって見えないこと(図3)。分娩前に太らせないためには、泌乳中後期〜乾乳期の栄養管理が重要です。
牛群検定を活用した対策でケトーシスの発生低減を
表1に対策をまとめました。牛群検定の活用により、ケトーシス発生を警戒すべき農場が分かります。警戒農場では、ケトーシス発生のリスクが高い牛に対し、試験紙(サンケトペーパー、日本全薬)で頻回検査を行います。これにより、ケトーシス牛の早期発見が可能に。
飼養管理としては、分娩直近の牛群移動を避け、乾乳牛の飼槽幅を確保するなど、分娩前後にストレスを与えないことが大切です。これらの対策を実践することで、農場におけるケトーシス発生を低減できると考えられます。