畜産

DNAを利用した道内黒毛和牛の能力診断システム

この記事は2022年6月1日に掲載された情報となります。

道総研 畜産試験場 肉牛研究部 肉牛グループ 研究主任 鹿島 聖志

道総研 畜産試験場
肉牛研究部 肉牛グループ 研究主任 鹿島 聖志

Profile:2005年北海道大学農学部卒業。2005年から現在まで道総研畜産試験場において、肉用牛、主に黒毛和種の育種研究に従事。

POINT
●能力を知りたい牛のDNAサンプル(毛根など)を送付することで、「北海道ゲノム育種価」の提供を受けることができます。

「ゲノム育種価」とは

私たちは、2017年に、DNAの情報から道内黒毛和牛の産肉能力を早期に評価する技術(ゲノム育種価)を開発しました。「ゲノム育種価」は、毛根などからDNAを抽出し、SNPチップと呼ばれるツールを用いて解析、得られる数万カ所の遺伝子型データを使って評価した能力の値です。分娩、肥育された産子の枝肉成績から能力評価する場合に比べ、DNAがあれば評価できるので、早ければ生後数カ月で能力が分かります(図1)。

「ゲノム育種価」のイメージ
図1.「ゲノム育種価」のイメージ

今回、道内生産者や道内種雄牛造成機関が、能力を知りたい牛のDNAサンプルを送付することで、ゲノム育種価の提供を受けられる「北海道ゲノム育種価評価システム」を構築しました。

「北海道ゲノム育種価評価システム」の仕組み

まず、家畜改良事業団に牛の毛根などを送付し、SNPチップでの解析を依頼します。解析したデータを道総研畜試が受け取り、ゲノム育種価の評価を行います。ゲノム育種価は、酪農畜産協会のウェブサイトを通して提供され、毎月評価値が更新される仕組みです(図2)。北海道独自で評価やデータ蓄積を行うことで、これまで使ってきた育種価と互換性があり、より実感に合う評価値を提供できます。

「北海道ゲノム育種価評価システム」の仕組み
図2.「北海道ゲノム育種価評価システム」の仕組み

また、「北海道ゲノム育種価」では、従来の6項目(枝肉重量、ロース芯、バラ厚、皮下脂肪、歩留、脂肪交雑)に加えて新たに2項目の評価を行っています。一つ目が、帯広畜産大学が開発した「新細かさ指数」と呼ばれる脂肪交雑の細かさを算出した数値です。二つ目は、全国的に取り組みが広がっている「オレイン酸」です。これらは、おいしさに係る項目とされており、食べておいしい北海道和牛への改良に向けた活用を期待しています。

道内生産者の活用例では選抜効率が大きく向上

道内のモデル生産者において、雌牛の早期選抜に北海道ゲノム育種価を活用した例では(図3)、生まれた雌子牛の全てについて、生後数カ月のうちに毛根を採取し、ゲノム育種価を評価しました。

雌牛の早期選抜に北海道ゲノム育種価を活用した道内モデル生産者の事例
図3.雌牛の早期選抜に北海道ゲノム育種価を活用した道内モデル生産者の事例 ※活用前(左)は、全て保留とした雌子牛について改めてゲノム育種価を調べたもの。

活用前は、能力が分からず発育や体型が良ければ全て保留していましたが、活用後は、ゲノム育種価が定以上の雌子牛のみ選択的に保留する経営となりました。

子牛市場に雌牛を売り払うのは10カ月齢前後ですが、生後数カ月で毛根を送付したので、市場売り払いの判断前にゲノム育種価が得られました。ゲノム育種価の活用で、雌牛の選抜効率は活用前の約2.6倍になると試算しています。

北海道ゲノム育種価の申し込みは各JAを通じ、酪農畜産協会もしくは畜産試験場にお問い合わせください。