飼養管理

腹胸比とBCSを活用した黒毛和種繁殖牛の栄養管理

この記事は2021年6月1日に掲載された情報となります。

道総研 畜産試験場 技術普及室 主査 糟谷 広高

道総研 畜産試験場 技術普及室 主査 糟谷 広高

Profile:帯広畜産大学大学院博士課程修了。乳牛および肉牛の飼養研究を担当。2021年4月から道総研 畜産試験場 技術普及室 主査として技術支援を担当。

POINT
●腹胸比と皮下脂肪の蓄積程度で栄養状態の把握ができます。

黒毛和種繁殖経営では、健康な子牛の生産や繁殖成績を良好に保つため、繁殖牛の過肥や削痩(さくそう)、あるいは急激な栄養状態の変化を起こさない管理が必要です。また、黒毛和種繁殖牛の多くは群で飼養されており、過肥を防ぐために飽食を避けることが多いのですが、飼料摂取量不足になる個体がみられることがあります。日常の飼養管理において、繁殖牛が飼料摂取不足、過肥や削痩になっていないかを調べる観察方法として腹胸比とボディコンディションスコア(BCS)が役立ちます。

腹胸比1.15未満は飼料摂取不足の可能性

腹胸比は腹囲(最後助骨後縁(さいごろっこつこうえん)と臍部(さいぶ)のやや後方を結ぶ周囲長)を胸囲で割った比率です(写真1)。図1は腹胸比と乾物摂取量との関係を示したものですが、腹胸比と乾物摂取量は有意な正の相関があり、腹胸比は飼料の摂取状況を示す指標になります。そして、これは1番草および2番草といった番草による違いはありません。

腹囲、胸囲の位置
写真1.腹囲、胸囲の位置
腹胸比と乾物摂取量の関係
図1.腹胸比と乾物摂取量の関係

また、道内の繁殖牛488頭の腹胸比の調査結果と代謝プロファイルの手法(血液検査を主体とした検診システム)を用いて基準値を策定したところ、腹胸比が維持期では1.15未満、分娩前では1.19未満、授乳期では1.16未満であると飼料摂取量不足の可能性が高くなることが分かりました。

3カ所の皮下脂肪蓄積程度で栄養状態を把握

黒毛和種繁殖牛では栄養度という指標で過肥や削痩状態を評価する方法が知られていますが、この方法では評価項目が多岐にわたります。日常の飼養管理では棘突起(きょくとっき)、腰角(ようかく)および尾根部(おねぶ)の皮下脂肪の蓄積程度をBCSとしてそれぞれスコアを取り、3カ所の平均値を評価することで栄養状態を把握することができます。

各測定部位(写真2)について、骨を直接触るような感触であれば2.0(削痩)、軽い指圧で骨を感知できるようであれば3.0(適)、脂肪で覆われて骨を感知できないようであれば4.0(過肥)とし、0.5刻みでスコアをつけます。慣れてくると0.25刻みでスコアをつけることも可能になるでしょう。図2にBCSの変化と体脂肪動員の指標である血中遊離脂肪酸(NEFA)濃度の推移を示しました。削痩状態になると体脂肪動員により血中NEFA濃度が上昇しBCSが下がっていきます。

各部位位置とボディコンディションスコア
写真2.各部位位置とボディコンディションスコア
BCSと血中NEFA濃度との関係
図2.BCSと血中NEFA濃度との関係 ※血中NEFA:体脂肪動員の指標

BCSを定期的に測定することにより過肥の方向に進んでいるのか、削痩の方向に進んでいるのか傾向を把握することができ、飼料給与量の見直しに活用できます。

数値を記録し飼養管理の見直しに活用

腹胸比もBCSも数値で記録し、観察する方法です。記録することにより年間を通して、繁殖牛の栄養状態を把握することができるようになります。また、日常の飼養管理の中で観察することで長期的な飼養管理の見直しに役立つ情報となるでしょう。