香港で認められた「北海道ブランド」戦略を他国へ拡大

キーワード:北海道産牛乳海外輸出道産品
写真1香港輸出用パッケージ
写真1.香港輸出用パッケージ
パッケージでは「北海道」をアピール。特選3.6牛乳、低脂肪乳、チョコレートミルク、全て輸出専用の商品です(右)。また、香港向けに一括表示を英語でプリント(左)。相手国の表示ルールに合わせ、現地到着後に現地語のシールを貼って対応するケースもあります。
この記事は2025年10月1日に掲載された情報となります。

牛乳乳製品部牛乳課

ホクレン 牛乳乳製品部 牛乳課
課長 久保 俊一(左)
課長補佐 清水川 真央(右)

 

北海道の牛乳はどこへ輸出されているのでしょう。現地ではどう評価されているのでしょうか。海外への販路拡大に取り組む担当者に聞きました。

 

POINT

●ホクレンの牛乳輸出先は9割以上が香港。

●東南アジア諸国への輸出拡大に挑戦中。

●輸出は将来を見据えた需要確保の一環。

 

香港に「北海道ブランド」が定着

—牛乳・乳製品の輸出先は?

ホクレンの輸出先については、現在、取り扱いの9割以上が香港向け。他にタイ・シンガポール・台湾・フィリピン・カンボジア・マカオ・パラオに少量を輸出しています。

また、グループ会社のよつ葉乳業も台湾とシンガポールを中心に輸出を行っています。

—輸出しているのはどんな商品?

常温で100日間保存できるLL(ロングライフ)牛乳を中心に、LL低脂肪乳やLL乳飲料(チョコレートミルク)などを、ホクレンの「北海道ブランド」として輸出しています。

 

図1LL牛乳輸出数量の変遷
図1.LL牛乳輸出数量の変遷(香港以外を含むホクレン通商の輸出総量)

中国で牛乳へのメラミン混入が発覚した2008年度から需要が急増。東日本大震災の影響で一時は落ち込んだものの、その後は徐々に取り扱い規模が拡大しました。2020年度をピークにここ数年は伸び悩んでいます。

 

輸送は海上コンテナを利用し、苫小牧から香港まで10日から2週間程度かかります。現地で通関手続きを終えて、ディストリビューター(輸入業者)を経由し、小売店へ並ぶまでには更に日数がかかります。

—牛乳の輸出はいつから?

香港に輸出を始めたのは1996年からです。新商品の投入や試飲販売などのプロモーション活動を地道に続け、約30年かけて「北海道ブランド」を定着させました。

 

写真2香港の路面電車への広告
写真2.香港の路面電車への広告

 

香港には酪農業がないため、欧米やオセアニア、中国など、さまざまな国の牛乳が出回っています。多くの商品がある中で、北海道産牛乳は、日本産のトップブランドとして㆒定の支持を得ています。

しかし、近年は香港の景気低迷や家庭内消費の減少により需要が停滞。日本から、他県産牛乳の輸出も増え、競争が激化しているのが現状です。

 

写真3香港イオンでの売り場
写真3.香港イオンでの売り場

 

長期的な視点で需要を確保

—輸出ならではの難しさとは?

輸出はグループ会社のホクレン通商と連携して行っています。

現地の輸入業者とも綿密に連携し、販売先の獲得に努めていますが、国内とは商習慣が異なり、小売店から商品の導入費用(リスティングフィー)を求められることも少なくありません。

国ごとに商品登録や輸入許可などさまざまな手続きが必要で、乳飲料の添加物がその国の基準を満たしているかなど、細かな確認も欠かせません。

—いま直面している課題は? 

現地で販売されている牛乳との価格差です。価格が高くても、「おいしさ」や「安心感」といった「北海道ブランド」の価値を訴求し、香港以外でもファンを増やしていきたいと考えています。

そのために試飲会などの販促施策(写真4)はもちろん、商品のバリエーションを増やす取り組みも進めています。

 

写真4タイでの試飲販売プロモーション
写真4.タイでの試飲販売プロモーション

 

もう一つの課題は輸送です。現在は常温のドライコンテナを使用していますが、温度を調節して運べるリーファーコンテナで、バターやチーズなどのチルド商品を輸出するチャレンジも始めています。

—今後の見通しは?

香港、シンガポール、台湾は市場が成熟し、需要拡大には限界があります。今後、経済発展が見込まれる東南アジア諸国への輸出拡大に取り組んでいますが、現地の牛乳との価格差もあり、短期間での需要拡大は難しい状況です。

中長期的な視点で販路を増やしていきたいと考えています。

—輸出に取り組む意義とは?

日本の国内市場は人口減少により縮小が見込まれているので、酪農家の皆さんにとって安定した経営環境をつくるためには、少しでも海外の販路を開拓し、需要を確保しておきたいと考えています。

北海道酪農を維持するためにも、微力ながら力を尽くしていきます。