この記事は2024年6月20日に掲載された情報となります。
酪農畜産事業本部 畜産生産部 生産技術課
暑熱対策の基本は牛舎環境や飼養管理を改善し、夏場の牛の快適性を高めることです(Vol.2参照)。その上で、暑熱対策資材を活用することが生産性の維持につながります。暑熱時に発生しやすいトラブルとその予防に効果的な資材を紹介します。
1. 暑熱トラブルと対策資材
(1) ルーメンアシドーシス対策
① 重曹
【製品】トヨファット(重曹)、ソーダイースト(重曹、活性酵母など)
暑熱対策の定番である重曹(NaHCO3)は、バッファー効果でルーメンpHの低下を緩和します。同時に、発汗によって失われるナトリウム(Na)の補給も行えます。なお、Naの過剰摂取は低カルシウム血症の原因となるため、乾乳牛には給与しないで下さい。
② 酸化マグネシウム
【製品】小野田Mg(マッシュ)、マグまぐタイム(ペレット)
酸化マグネシウムはルーメン内でアルカリ性となり、重曹と同じくバッファー効果があります。特に、粗飼料割合が低い飼料において、ルーメンpHを高く維持する効果があるため(下図)、乾物摂取量が低下する暑熱時に効果が期待できます。なお、マグネシウムはエネルギー生産、タンパク質合成酵素の活性化、抗酸化物質の合成に関わる重要なミネラルですが、体に蓄積できる量が非常に少ないため、搾乳牛、乾乳牛を問わず暑熱時以外にも給与することを推奨します。
(出典:J Dairy Sci. 106:4580-4598(Alex Bach et al., 2023)より)
③ 活性酵母
【製品】バインドプラス(活性酵母、カビ毒吸着剤など)
ルーメン環境を安定させ、繊維消化率の向上する活性酵母は、夏場の粗飼料の食い込みを維持し、ルーメンアシドーシス緩和効果が期待できます。なお、昨年産の1番サイレージは水分が低い傾向にあり、高温多湿の夏場にはカビの発生が懸念されるため、カビ毒吸着材との混合製品の利用も推奨します。
(2) 乾物摂取量の維持・エネルギー補給
① 糖、糖蜜
【製品】スイートタイムS(マッシュ)、デイリーリックス(固形)
糖は大半がルーメンで酪酸となります。酪酸はルーメンのVFA※吸収能力を高め、エネルギー利用効率を高めると共にルーメンpHの低下を予防します。また、糖蜜や糖は嗜好性が非常に高いため、マッシュ状の糖蜜飼料をTMRに混ぜたり、上からふりかけることで乾物摂取量を高める効果が期待できます。また、固形の糖蜜飼料は糖を必要としている牛が自由に舐めることができます。
※飼料がルーメンで発酵する際に発生する酢酸やプロピオン酸などの揮発性脂肪酸
② 脂肪酸カルシウム、バイパス油脂
【製品】ネオファットMA(エネルギー補給)、パームファットYPT(乳脂率向上)
乾物摂取量が低下しやすい暑熱時に、ルーメンアシドーシスのリスクを高めずにエネルギー補給する方法として油脂の利用が有効です。油脂に含まれる脂肪酸の種類によって効果が違うため、目的に合わせて使い分けることがポイントです。
(3) 体温を下げる
① バイパスナイアシン
【製品】なつこ(バイパスナイアシンなど)
バイパスナイアシンは血管拡張作用があり、体表面からの熱放散を促進します。高泌乳牛や乾乳後期牛への使用が効果的で、送風と組み合わせることで体温低減効果が高まります。また、直腸温の低下効果もあり、夏場の受胎率維持にも効果的です。
(4) 免疫機能の維持
① バイパスコリン、ビタミンB群
【製品】スターコル60(バイパスコリン)、ウコンB(ビタミンB群、ウコンなど)
暑熱ストレス時の「DMI低下によるエネルギー不足」、「体脂肪動員」は肝機能を低下させます。特に泌乳前期牛などの高泌乳牛が食えないで痩せると、著しい肝機能低下が起こります。肝機能対策で免疫機能の維持、エネルギー代謝の回復などを図るために、バイパスコリンやビタミンB群が有効です。
② ビタミンADE
【製品】ACEペレット・パウダー
ビタミンAやEは、抗酸化物質として乳質や繁殖成績の維持のため暑熱時以外も多くの農場で使用されていますが、暑熱時は酸化ストレスが強くなるため、給与量を増やすことを推奨します。また、暑熱時における免疫機能を保つために、ビタミンDとカルシウムを増給することを推奨します。
(5) オールインワン
【製品】スイートタイムNEO、HSTミックス、マスタードライP
これまで紹介した製品(糖、ビタミン、バイパスコリン、活性酵母など)に加え、抗酸化物質の微量ミネラルなどを加えた使いやすいオールインワンの製品です。
また、乾乳牛の栄養やミネラルの充足、バイパスコリンによる肝臓の健康維持、抗酸化による免疫機能維持をコンセプトに新発売された乾乳期専用の配合飼料「マスタードライP」は暑熱対策としてもおすすめの製品です。
2. 使用時期の目安
最後に、ご紹介した製品を使用する時期の目安を搾乳牛と乾乳牛に分けて記載します。費用対効果を考えて、上手に製品をご活用ください。また、製品の詳細についてはお近くのJAまたはホクレン各支所 酪農畜産課・畜産生産課までお問い合わせください。
(1) 搾乳牛
(2) 乾乳牛