この記事は2024年2月1日に掲載された情報となります。
北海道指導農業士 岡本 健吾さん(JA北宗谷)
Profile:1978年豊富町生まれ。農業生産法人さくら牧場 代表取締役。
酪農学園大学卒業後、獣医師の業務に従事。
28歳でUターンし、父の牧場に家畜診療所を併設。2014年に事業承継。
現在の総頭数は約600頭、うち経産牛約380頭、草地面積は380ha。
従業員は技能実習生2人を含む7人。
10年前、35歳で父からメガファームの経営を任された岡本さん。最初は「荷が重く、不安でしょうがなかった」といいます。祖父から父、父から自分へ、手渡されてきたバトンを次代へつなぐために奮闘中です。
大切にしている酪農の基本技術はありますか。
岡本:事故や問題が起きる時は、基本からズレていることが多いですね。牛が餌を食べているか、水を飲めているか、ちゃんと座れているか、衛生管理はどうかなど、基本的なことを振り返るようにしています。
大切なのは、具合が悪くなりそうな牛を見つけること。特に分娩後は疲れているし、弱いので、重点的に観察するよう従業員にも伝えています。
困難にぶつかった時はどう乗り越えますか?
岡本:もう困難ばかりですよ。搾乳ロボット2基を導入した牛舎を建てた直後に新型コロナの感染拡大。国際情勢の悪化で飼料が高騰し、人手不足も追い討ちをかけて…。なんとかギリギリやっている状況ですけど、悩んでもしょうがないので、前向きに考えるようにしています。
昨年、うちを含めて3戸でTMRセンターを立ち上げて、飼料供給は外部委託のかたちにしました。おかげで少し時間の余裕ができました。多くの人に助けられているので、周りに感謝しながらやっています。
もちろんモチベーションが下がる時もありますよ。そういう時は…牛を眺める(笑)。あとは他の地域の牧場さんを見学に行く。みんな頑張っているんだな、負けていられないな、と刺激を受けますから。一度やろうと決めたことは最後までやり通したいとは思っています。
指導農業士としてどんな活動をしていますか?
岡本:認定されてまだ1年なので、ほとんど活動できていませんが、地域に残ってくれる人材を育てたいと常日頃思っているので、諸先輩方のお話も聞きながら、担い手育成の活動に参加したいです。
ここは庄内開拓地といって、戦後、満州から引き揚げてきた山形県庄内地方出身者が開拓に入った地域なんです。泥炭地で栄養が少なく、風も強くて条件がすごく厳しい。それでも僕の祖父をはじめ先々代の方々が想像を絶するような苦労をして開拓し、ここまでの牧草地を築きあげました。幼いころ祖父によく聞かされたんです。水はけが悪く、ヤチマナコやヤチボウズがびっしりあって、開拓はそれらとの闘いだったと。
だから昨年、仲間とTMRセンターを立ち上げた時も「開拓精神」を掲げました。今は外国人の技能実習生に頼らざるを得ない状況ですが、今後、地域の酪農を残していくためには、町外から新規就農者を迎えて育てていかないとならない。先々代、先代に恥じないよう、この土地を守りながら、北海道の酪農を世界に誇れるものにしていきたい。僕が引退するまでの数十年、地域に貢献できれば、という思いです。