この記事は2023年11月6日に掲載された情報となります。
北海道立総合研究機構 酪農試験場 草地研究部
飼料生産技術グループ 研究主任 中村 直樹
Profile:2012年北海道大学大学院 環境科学院(修士課程)修了。
酪農試験場にて、自給率が高く、持続可能な飼料作物生産をテーマに取り組む。
POINT
●多回刈りすることで消化性の高い牧草の生産が可能になります。
牧草の消化性を高めて購入飼料削減
消化性の高い自給飼料を給与できれば、購入飼料削減が可能となります。その手段の一つとして、1番草を生育ステージの早い段階で刈り取った後、短い間隔で刈り取る方法があります。
穂ばらみ期〜出穂始で1番草を収穫し、その後、年4回以上(チモシー(TY)早生では3回以上)収穫する体系を「(採草地)多回刈り」と定義し、その効果を調べたので紹介します。
多回刈りによる収量の変化と消化性の向上
多回刈りにより収量は減少しましたが、減収の程度は草種(TYかオーチャードグラス(OG)か)によって異なり、TYよりもOGで小さくなりました。
また、牧草中のNDF※含量は、いずれの草種や品種でも多回刈り処理で低下しました。同様に、値が低いほど消化性が高いと考えられる牧草中のuNDF含量も、多回刈り処理で低下しました(表1)。
※NDF:飼料中の繊維含量、uNDFは一定時間のうちに消化されない繊維含量を表す。
多回刈りによる草種構成の変化
マメ科を混播することで粗飼料のタンパク質含量の向上が期待できます。TYとOGそれぞれに、アルファルファ(AL)「ウシモスキー」を混播した際の冠部被度の推移を図1に示しました。
TY冠部被度は品種の早晩性や刈り取り処理に関わらず、時間の経過とともに低下する傾向を示しました。一方、OG冠部被度は品種の早晩性や刈り取り処理に関わらず、時間が経過しても高水準で推移しました。
ALの冠部被度はいずれの混播区も刈り取り回数が増えるごとに低下し、OG-AL混播区の4-5回刈り区で特に低下しました。
雑草の冠部被度はTY-AL混播区では刈り取り回数が増えるごとに増加しましたが、OG-AL混播区では極端な増加傾向は認められませんでした。
生産現場への導入に向けて
多回刈り試験の結果から、草種はOGとし、1番草を生育ステージの早い段階(穂ばらみ期〜出穂始)で収穫し、その後40日間隔で収穫する方法が、消化性の向上や草種構成維持の観点から有効だと結論できます。
また、OG単播であっても、多回刈りすることで粗タンパク(CP)含量の向上が期待できます。多回刈りは収穫回数が増えることから、作業労力や生産コスト増加が懸念されます。
また、約20%程度の減収(1番草を穂ばらみ期で収穫した場合)が見込まれることから、計画的・段階的に導入を進める必要があります。
既存のTY2回刈りの生産体系100haの半分(50ha)にOG4回刈りを導入する場合の試算を図2に示しました。
既に多回刈りを導入している生産者への聞き取りでは、メリットとデメリット両方が挙げられています(表2)。
今後は、どのような経営形態で多回刈りが導入可能か整理していく必要があります。自給飼料率の向上には、他にもさまざまな技術開発が求められますが、本試験の成果が参考になれば幸いです。