安定した酪農経営に向けて

飼料コスト改善 〜ルーメンと飼養管理の深いつながり〜

キーワード:生産コスト酪農経営飼料管理

飼料コスト改善 〜ルーメンと飼養管理の深いつながり〜

 

生産コストの増大に起因する難局を、どのように乗り越えるか。真っ先に考えが巡るのは、経営コストの約4割を占めるといわれる飼料の改善ではないでしょうか。

そこで、飼料面でのコスト改善の余地を探るとともに、酪農経営を安定させる飼養管理のポイントを酪農学園大学の泉賢一さんにお聞きしました。

この記事は2023年6月1日に掲載された情報となります。

 

泉 賢一さん

酪農学園大学 農食環境学群
循環農学類ルミノロジ—研究室
教授 泉 賢一さん

Profile:1997年北海道大学農学研究科修士課程修了(畜産学専攻)。1998年酪農学園大学附属農場助手。2015年から現職。牛の第一胃(ルーメン)の仕組みの解明、飼料が牛の健康に及ぼす影響などを調査。その知見を農場全体の牛群管理・飼育管理改善、生産性向上につなげる研究に取り組む。

 

ルーメン※1から見る飼料費節約のポイント

今回のテーマは農業経済学者の視点ではなく、あくまで私の研究分野である「ルミノロジー※2」の視点からお話しすることにご留意ください。

ズバリ、飼料費の節約のポイントは「その節約を実施してもルーメン微生物の元気が無くならないこと」に尽きます。

牛は、人が食べることのできない繊維系の資源を巨大なルーメンで生乳に変えます。その役割を果たすのがルーメンに生息する微生物です。微生物は、牛が元気で気持ちよく過ごしていなければ育たず、力を発揮しません。つまり、飼料(栄養)のコストパフォーマンスを上げるためには、牛床の清潔・快適性、空気や水のきれいさ、採食環境、牛舎内の温度・湿度など、飼養(飼育)管理こそが基本となるのです。

私自身、以前は飼料設計が最優先だと考えていました。しかし、どんなに完璧に設計されたTMR3を与えても、牛にとって快適な飼養管理が履行されていなければ生産性に結び付きません。その現実を、各地の牧場に足を運ぶ中で目の当たりにしてきました(写真1)。

 

写真1.最新の施設でも餌が無ければ牛は利潤を返してはくれません。
写真1.最新の施設でも餌が無ければ牛は利潤を返してはくれません。
※1.牛の第一胃のこと。多量の飼料が貯蔵され、そこに生息する微生物が飼料を分解。
※2.反芻(はんすう)動物の第一胃の機能や栄養生理についての科学や技術のこと。
3.牛が必要とする飼料成分が均一に保たれた混合飼料のこと。

飼料費はどこまで削れるのか

ルーメンと飼養管理の関連性の前提を踏まえたうえで、飼料費削減の余地を探ってみたいと思います。

北海道の場合は粗飼料を自給しているケースが多いと思いますので、まず目が向かう先は輸入に頼らざるを得ない穀物飼料ではないでしょうか。

穀物飼料については、粗飼料から十分なエネルギーを取得できていれば、給与量を減らす余地があるといえるでしょう。すなわち、ベースとなる粗飼料品質が穀物飼料の給与量を左右するカギとなります。

意外に思われるかもしれませんが、乳牛が生乳を生み出すためのエネルギーの半分以上は粗飼料に由来します。また、同じ量の粗飼料を摂取しても、品質が低下すると数kg単位で簡単に乳量は減少します(表1、2)。

 

表1.粗飼料はエネルギー源の主役
表1.粗飼料はエネルギー源の主役
刈り遅れのグラスサイレージに変わるとME(代謝エネルギー)が減って、乳量が1.15kg減少しました。
※1.グラスサイレージのみが適期刈りから刈り遅れに変わり、他の飼料は変更無しのケースで試算。
※2. 代謝エネルギー
※3. メガカロリー=1000キロカロリー
※4.圧ぺんとうもろこし、配合飼料、大豆粕、ビートパルプ、コーングルテンミール
※5.飼料設計ソフトの予測値

 

表2.乳量1.15kg/日の乳量減は小さく見えますが、経営へのインパクトは多大です
表2.乳量1.15kg/日の乳量減は小さく見えますが、経営へのインパクトは多大です。
※1.乳代を1kg=100円とする。
※2. グラスサイレージ以外は変更がないので飼料費は同額となる。

 

表1、2では実際の適期刈りと刈り遅れのグラスサイレージで比較しました。刈り遅れサイレージでは1.15㎏の乳量減少となり、年間では2,098千円の大損失となってしまいました。この結果は、粗飼料品質がいかに大切かを物語っています。

また、取り組みのつの考え方としては乾乳期や泌乳後期、乳量が30kgほどの牛であればそもそも多量の穀物や複雑な添加剤の給与は必要なく、思い切ったコストカットも可能だと思います。

注意が必要なのは、これまで穀物多給(高泌乳追求)だった場合や分娩直後の牛です。やみくもに穀物飼料を削減しても身を削って泌乳を続けようとするため、牛体の健康を損なわないためにも慎重に実施すべきです。

では、牛の生命維持や生乳生産の基本となる粗飼料の変更はどうでしょう。購入繊維源(乾草)を利用している場合は次のような選択肢が考えられます。

 

❶購入繊維源の給与量を減らす
価格は安いが栄養価の低い繊維源に置き換える(わら類や稲ホールクロップサイレージなど)
❸牧草以外の安価な非粗飼料繊維置き換える(ビートパルプやその他の粕類)

 

ここでの注意点は、粗飼料の変更はルーメンの健康度低下(❶❷❸)、採食量の低下(❶❷)、保管時の変敗(❸)のリスクも考えられるということです。方で、もし❸の品質が変更前の繊維源の品質を上回るならば、生産性が向上する可能性もあります。

国際情勢や気候変動、世界的な人口増加と食生活の変化なども相まって、これまでのように潤沢に飼料が輸入できる時代が戻ってくるとは限りません。今後ますます、いかに粗飼料から牛乳を搾るかが重要になると感じています。そのためにも、圃場管理や飼料調製の技法を今度見直してはいかがでしょうか。

そのコストカットは有益?

っかく節約に取り組むわけですから、本当の意味で適切なコストカットにつながっているかを見極めたいところです。判断材料のつとして、飼料効率を金額で表すインカム・オーバー・フィード・コスト(IOFC:乳代収入−飼料費)があります。

仮に飼料費を削減できても、牛が体調を崩したり、生乳生産が必要以上に減少したりすることでIOFCが大きくマイナスになれば元も子もありません。それは「飼料効率が悪い状態」といえます。

飼料変更の際には、乳量の落ち方や乳成分の変化に注意が必要です(図1)。

 

図1.栄養と乳量の変化による許容範囲
図1.栄養と乳量の変化による許容範囲

 

乳生産の落ち込み方から見て放置して良い変化なのか、危険サインの前兆なのかを見極め、場合によってはすぐに以前の飼料体系に戻すことも必要になります。サインを見逃さないために乳量・乳成分のモニタリングは必須ですし、乳検の加入は“かけるべきコスト”だと考えます。

そして、飼料の移行期間は2〜3週間をかけましょう。ルーメン内の微生物が変化に順応するのに必要な時間です。反対に、添加剤などの効果を期待するなら2〜3週間の継続期間が必要です。それは、ルーメン微生物が添加剤に順応するのに時間がかかるからです。効果が見えないからといって給与を途中でストップしてしまうと、無駄なコストをかけたことになります。

目先の(見えやすい)コストカットだけにとらわれることなく、普段から飼料効率を意識して改善に取り組んでみてください。

 

見逃しがちなロス

直接的な飼料変更以外にも、飼料を取り巻く環境で節約の余地は目の前に転がっています(表3)。

 

表3.見逃しがちなロス
表3.見逃しがちなロス

 

先述のように粗飼料生産に力を入れることはコストカットを検討するうえで重要ですが、もしも人手不足などの環境の制約によって高品質の粗飼料を自給できない状況にあるならば、TMRセンターを利用することでIOFCが向上することもあり得ます。

また、遺伝能力が低い場合など、いくら同じ餌代をかけても乳生産につながらない牛も存在します。そのような時は、IOFCに基づいた廃用淘汰(とうた)計画(ゲノムや繁殖プログラムを使った牛群改良)を実施することでコストカットにつながる可能性があるでしょう。

 

写真2.定期的な草地更新による雑草被度の少ない牧草生産も大切。
写真2.定期的な草地更新による雑草被度の少ない牧草生産も大切。

 

未来に向けて今からできること

最後に、強い酪農経営基盤を築くために今から取り組んだ方が良いことを、酪農経営全体を考察してまとめてみました(表4)。

 

表4.強い酪農経営のために今から取り組むべきポイント
表4.強い酪農経営のために今から取り組むべきポイント

 

飼料費高騰という観点からインパクトが高いのは、でんぷんと繊維質が豊富なデントコーンサイレージの給与だと考えます。コーンサイレージとセットでおすすめしたいのが、コーンクラッシャー(写真3)の導入です。

 

写真3.ハーベスターから取り外されたコーンクラッシャー。
写真3.ハーベスターから取り外されたコーンクラッシャー。

 

この機械でデントコーンを潰すと消化性が良くなり、選択採食を防ぐことができます(写真4)。

 

写真4.コーンクラッシャーの効いたサイレージ。芯が見当たらず実も潰れているので消化率が向上。
写真4.コーンクラッシャーの効いたサイレージ。芯が見当たらず実も潰れているので消化率が向上。

 

穀物飼料の削減にもつながりますし、機械自体は数百万円ほどで導入できるため、今後を見据えた経営を考える際に費用対効果の高い投資といえそうです。

酪農生産では生乳を出荷するまでに長い工程を経るので、そのどこかに改善や利潤を生み出す可能性が隠れています。つは小さな額かもしれませんが、そのロスをつぶしていけば大きな利潤が得られる、そんな産業です。厳しい時代であっても、そこは変わらないはずです。

「様子を見る」だけでは、牛も経営も変わりません。関係機関や酪農家同士の協力体制づくりも視野に入れながら、飼養管理の改善にもチャレンジしてみてください。