この記事は2016年10月1日に掲載された情報となります。
北海道指導農業士協会
副会長 近藤 英實さん
北海道指導農業士協会の副会長を務める標茶町の近藤英實さん。
放牧とフリーストールを組み合わせた、独自の経営スタイルを確立しています。
「こうやりたいという夢があるなら、人がなんといっても貫き通す」
Profile:1955(昭和30)年、標茶町生まれ。 JAしべちゃ管内で奥様の智恵子さんと二人三脚で酪農を営み、1996年に北海道指導農業士の認定を受けてからは、新規就農希望の研修生を数多く受け入れてきた。指導農業士・農業士釧路地区連絡会議の会長ほか、北海道指導農業士協会の副会長を務めている。
自分のスタイルを見つけるまで
標茶町で酪農を営む近藤英實さん。優良経営のコツを教えてほしいと尋ねると「私がやってきたことを、若い人にも同じようにやれ、とは思わないんだよね」と一言。その真意をこう説明してくれました。
「一人一人個性も違うし、育ってきた時代も環境も違う。自分と同じようにやれというのはナンセンス。むしろ、若者が持っている感性を大事にしてあげて、いいところをどう引き出すか。そういう大きな気持ちで後押しするのが我々の役目だと思ってるんです」
近藤さん自身、両親から引き継いだときは30頭前後のつなぎ牛舎しかなかった牧場を、経産牛と育成牛あわせて170頭まで拡大。起伏の多い丘陵地帯を活かして放牧し、フリーストールの牛舎を建て、牛たちが牛舎と牧区を自由に移動するユニークなスタイルを実践してきました。
春から秋までの放牧期間は通常、舎飼いに比べ乳成分が低下しがちですが、近藤牧場の乳脂肪分は4.0%、無脂乳固形分は8.6〜8.7%と、常に平均を上回る高い数値をキープしています。
「かつては100頭くらい搾っていた時期もあったんだけど、いまは常時80〜90頭くらい。草地面積とのバランスを考えると、このくらいがベストなんだよね」
単に規模拡大を目指すのではなく、与えられた環境でベストな方法を考えてきた近藤さん。とはいえ、今のかたちに落ち着くまでは失敗も多く、経験を積むうちに考え方も変わってきたといいます。
経営スタイルは人それぞれ
近藤さんは1996年に指導農業士の認定を受けて以来、新規就農希望の研修生を数多く受け入れてきました。
「私のところで研修した実習生が3組、町内外で新規就農しましたが、経営のスタイルはさまざまですよ。牛舎を持たずに搾乳棟だけ造り、通年放牧でやってる人もいれば、草地を持たずにやってる人もいる。私より乳質が良くて、優秀な人もいますよ(笑)」
当初、新規就農者の独創的なスタイルを不安視していた近藤さん。しかし、彼らの挑戦を見守るうちに、成功する経営スタイルは決してひとつではないと考えるようになったそうです。
「自分はなにが得意で、なにが苦手か分かっていればいいんです。牛の扱いは好きだけど、機械に乗るのは苦手。だったらどうするか。機械に乗れる人を雇えばいい。その給料を出せるくらいの収入を稼ぐにはどうしたらいいか、と考えていけばいいんです」
なによりも大切なのは「自分のポリシーを持つこと」だと、近藤さんは感じています。
「こうやりたいという夢があって、人がなんといっても貫き通す。そういう人なら、つまづいても立ち上がれる。今まで育った人はみんなそうだね」
だから、たとえ親であっても後継者に自分のやり方を押しつけてはいけないと考えています。
「農業は自営業というより自由業。自分で発想して思ったようにやれるのが魅力でしょ。親や先輩農業者が自分のやり方を押しつけたら、そこで一緒にはできなくなる。優秀な人ほど地域に残らず、よそに出て行ってしまうことになりかねないよ」
忙しい牧場経営の傍ら、釧路地区の指導農業士・農業士連絡会議の会長として、若手の育成に熱心に取り組んでいる近藤さん。「若い人の計画をよく聞いて、失敗してもいいからやってごらんというくらいの度量を持ちたい」と思いを語ってくれました。