飼料用とうもろこし生育の限界地帯ともいえる別海町上春別地区。そこで飼料用とうもろこしと牧草の輪作にいち早く取り組んでいる橋本明雄さんにお話を伺いました。
この記事は2020年12月1日に掲載された情報となります。
別海町 橋本 明雄さん
Profile:祖父の代に福島県から入植し牛1頭から酪農をスタート。現在は115haで飼料用作物を栽培しています。約200頭の乳牛と和牛を二人の息子さんと従業員1名で飼育。現経営主の息子さんから、畑の管理を任されています。
輪作で畑を起こすことが草地改良につながる
見渡す限りの牧草地には青々とした草が繁り、飼料用とうもろこしは橋本さんの背丈をはるかに超す高さまで育ち、収穫の時を待つばかり。橋本さんが取り組み続けているのが、牧草と飼料用とうもろこしの輪作による草地更新と地力のアップで、その成果はこの畑の様子が証明しています。広々として風通しのよい牛舎では、牛たちがのんびりと草を食んでいました。
橋本さんが経営に参加したのは、高校卒業後すぐの1969年。標茶高校で学んだ当時の最新の酪農技術を実践すべく、輪作による草地更新への挑戦が始まりました。ヨーロッパで主流だったアルファルファを導入しましたが定着せず、1973年には飼料用とうもろこしヘイゲンワセを導入。冷害による全滅にも見舞われましたが、あきらめずに試行錯誤を繰り返していきました。
転機は1989年のフランス視察。現地で見た飼料用とうもろこしのマルチ栽培に手ごたえを感じ、翌年から導入。ホクレンの協力もあり、その結果がすぐに現れ、サイレージの高栄養化につながりました。2007年には作付面積を拡大。地温を上げて地力を高めることで気候の影響を受けにくくなり、収量の安定につながっていることを実感しています。
現在は、牧草を5年、飼料用とうもろこしを3年のサイクルで輪作しており、飼料自給率は60%を超えています。
「いい牧草をつくれるのは更新してからだいたい5年間。その後、3年は飼料用とうもろこしを栽培し、畑を反転耕起することで牧草の表層マットが微生物に分解されて良い土になる。畑はちゃんと起こさないとダメだね」と橋本さんは話します。
牛が喜んで食べる餌をつくる
橋本さんの経営理念は「利益が出れば人、牛、土で分け合う」こと。そのために大事にしていることが「基本的なことをきちんとやること」です。丁寧な仕事の継続がよい結果につながります。もうひとつが「自然のサイクルを生かす」こと。
「秋起こしなど適切な圃場管理が土壌の物理性や地力を向上させる。地力が上がれば肥料が少なくても高栄養で牛が喜んで食べる餌をつくることができ、それを食べた牛がよい牛乳を出してくれる。安心安全な牛乳を届けることで消費者の信頼も得られる。全てはつながっているんだよね」と輪作のメリットを実感しています。
デメリットはほとんどなく、強いて言えば、播種のための春作業が増えること。しかし、以前と違って今はコントラクターも利用できるため、新たな機械の導入などの必要はありません。「やろうと思えばすぐにできる環境は整っている」と橋本さんは感じているそうです。
「酪農家は地球上で一番難しい職業。なぜならすべての結果が、牛を通してでしか分からないから。これだけ長くやっていても満足できない。次の世代へつないでいくためにも、輪作体系を確立することが必要なんだよね」と話す橋本さんの挑戦は、まだまだ続きます。