増加する直播栽培

増加する直播栽培

この記事は2023年12月1日に掲載された情報となります。

北海道農政部 生産振興局 技術普及課 主査 上田 朋法さん

北海道農政部 生産振興局
技術普及課 主査 上田 朋法さん

北海道農政部 生産振興局 技術普及課 主査 木村 篤さん

北海道農政部 生産振興局
技術普及課 主査 木村 篤さん

 

水稲・てん菜の直播栽培は右肩上がり

技術普及課の調査によると、全道の水稲直播面積は4578ha(2023年)。ここ2〜3年で大きく伸びているのが分かります(図1)。戸数は乾田直播が575戸で、湛水直播が377戸。

図1水稲省力化栽培調査/速報値(北海道農政部生産振興局技術普及課調べ)
図1水稲省力化栽培調査/速報値(北海道農政部生産振興局技術普及課調べ)

 

10年前の2013年には湛水が乾田の戸数の倍近くありましたが、ここ数年で逆転しています。ただ、それでも直播面積は水稲の作付面積全体から見るとまだ5%未満に過ぎません。

一方、てん菜は直播栽培面積の割合が2022年に40%を超えました(図2)。2010年には12%だったので、この12年間で3倍以上に増えました。産地によって差はありますが、上川や十勝ではおよそ半分が直播になっています。

図2てん菜直播率(北海道農政部生産振興局農産振興課調べ)
図2.てん菜直播率(北海道農政部生産振興局農産振興課調べ)

 

背景は担い手の減少に伴う作付面積拡大と労働力不足

直播栽培が急激に増えている背景には、担い手減少に伴う1戸当たり作付面積の拡大と労働力不足があります。水稲の場合、規模拡大で育苗、播種作業が限界となり、基盤整備を契機に取り組み始めたり、飼料用米や稲WCSの栽培で導入したりするケースが増えているようです。

また、低温苗立ち性に優れた良食味品種「えみまる」の登場や、栽培技術の向上で移植並みの収量がとれるようになったこと、普及が進んでいるドローンを利用した湛水直播の試行も始まっていること、なども影響していると考えられます。

てん菜の場合も、1戸当たり面積拡大と人手不足で育苗や移植作業が現実的に困難になってきたこと、直播による安定生産技術が確立されてきたことが理由のようです。

作業時間の削減に効果あり

直播栽培に取り組むことで、どのような効果が期待できるのでしょう。まず、稲作は育苗がなくなるので労働時間削減につながります(図3)。ただし、圃場の均平など移植にはない作業が加わることで、他作物との作業競合が起こる場合もあります。

 

図3.水稲栽培の労働時間(1ha当たり) 北海道生産技術体系 第5版より
図3.水稲栽培の労働時間(1ha当たり) 北海道生産技術体系 第5版より

 

てん菜も移植用ペーパーポットの播種や約45日間の育苗がなくなり、作業時間が大きく短縮できます。少し古いデータですが、労働時間を10a当たり6・3時間圧縮でき、移植の半分程度まで省力化できるという試算もあります(図4)。

図4てん菜直播栽培による省力効果 社団法人北海道てん菜協会「てん菜直播栽培マニュアル2004」より
図4.てん菜直播栽培による省力効果
社団法人北海道てん菜協会「てん菜直播栽培マニュアル2004」より

 

また、ペーパーポットの移植では、決まった日にパートや雇用労働をお願いしていると、気象条件が良くない日でも無理して作業せざるを得ませんが、直播なら自分でタイミングを決められます。好天を選んで作業できる、自由度が高いのも直播のメリットと考えられます。

直播導入のポイント

水稲は保有機械や圃場条件、設備なども考慮して技術の選択が重要です。また、てん菜の場合、人手確保が難しい地域、機械更新が迫っている方は、直播も選択肢として考えてみましょう。一度に全面積を切り替えなくても、条件の良い農地から段階的に試すこともできます。

導入に当たっては地域の優良事例、指導機関の技術資料やアドバイスを参考に、優先すべき技術項目を見極めて検討しましょう。

写真1と2の資料では、それぞれの直播栽培導入のポイントがまとめられています。留意事項を確認の上、参考にしてください。

写真1直播栽培テキスト 直まき10俵どり指南書Vol.4(空知農業改良普及センター本所)
写真1.直播栽培テキスト 直まき10俵どり指南書Vol.4(空知農業改良普及センター本所)https://www.sorachi.pref.hokkaido.lg.jp/ss/nkc/138804.html

 

写真2てん菜直播栽培マニュアル2004北海道農産協会(旧北海道てん菜協会)
写真2.てん菜直播栽培マニュアル2004 北海道農産協会(旧北海道てん菜協会)
https://hokkaido-nosan.or.jp/manager/wp-content/uploads/tyokuha-saibai_2004.pdf

 

単なる省力化に止まらない効果

直播栽培は単に省力化や低コストにつながるだけではありません。

水稲については、育苗がなくなって空いた時間を他作物へ振り向けるなど、経営改善につなげることが可能です。人手を掛けず、乾田直播では畑作機械を汎用利用するなど、経営を合理化して営農を続けられれば、地域の衰退を食い止めることにもつながると期待されます。

一方、畑作の場合、てん菜や馬鈴しょは手間が掛かって負担が大きいと敬遠されがちですが、持続的な畑作農業には適正な輪作が必要です。てん菜であれば省力的な直播栽培も現実的な選択肢と考えられます。

なお、直播は育苗に係る資材など削減できるので移植より環境負荷が少ない栽培法です。

水稲の直播が盛んな地域では研究会や勉強会が組織され、これまで蓄積された知見や情報を共有して普及に努めています。一人でチャレンジするのは不安ですが、身近に安定して収穫している生産者がいるなら、きっと挑戦しやすいはずです。