防除の選択肢を広げるために

使える農薬の拡大で進む ドローンによる農薬散布

キーワード:スマート農業農薬
2020年8月3日、旭川市で行ったドローンと無人ヘリの比較試験の様子。
写真1. 2020年8月3日、旭川市で行ったドローンと無人ヘリの比較試験の様子。

ドローンによる農薬散布は、スプレーヤーや無人ヘリによる防除と比べて何が違うのでしょう。メリットとデメリット、普及に向けた課題を技術普及課で聞きました。

この記事は2020年10月1日に掲載された情報となります。

ホクレン資材事業本部 肥料農薬部 技術普及課 技師補 丹羽 昌信

ホクレン資材事業本部 肥料農薬部
技術普及課 技師補 丹羽 昌信

ドローンは高濃度で少量散布

技術普及課の丹羽さんは「地上走行のスプレーヤーでの農薬散布に対し、空中から散布するドローンは濃い濃度で少なくまくのが特徴」だと説明します。

「スプレーヤーのタンクは1000ℓ以上のものもありますが、ドローンのタンクは10〜16ℓ程度。ドローンの場合は同じ薬剤でも少量を高濃度でまく必要があります」

そのため現在は、無人航空機による散布(高濃度少水量)の登録農薬が多い、水稲で主に普及しています。畑作や園芸での使用がまだ限られているのは、ドローンで散布可能な畑作や園芸用の登録農薬が少ないことも要因。今年3月末時点で稲・麦類が508剤あるのに対し、いも類は24剤、豆類は66剤とかなり少ないのが現状です (表1)。

ドローンに適した農薬の登録状況(国内)
表1. ドローンに適した農薬の登録状況(国内)
※農業分野におけるドローンの活用状況(農林水産省2020年6月)より作成。目標登録農薬数は、農業用ドローン普及計画(農林水産省2019年3月)の設定数。

登録農薬拡大に向け試験実施

「水稲防除はドローンだけでやろうと思えばできますが、畑作・園芸は薬剤のローテーションができないため、登録農薬の拡大が急がれます」

そこでホクレンでは農薬メーカーと協力し、馬鈴しょとてん菜向けの殺虫剤2種の試験を実施中。長沼研究農場においてドローンで高濃度の薬剤を散布し、薬害の有無や慣行防除との効果の差を検証しています。問題が無ければ試験結果をメーカーにフィードバックし薬剤登録を後押し。今後登録農薬が増えれば、ドローンの活用範囲も更に広がるはずです。

「ドローンのメリットは圃場に入らずに散布できること。土壌がぬかるんでいても散布でき、作物を踏み病気の原因をつくることもありません。根雪直前に行う小麦の雪腐病防除や、大雨で圃場に入れない時の緊急防除などドローンが活躍する場面は多いでしょう」

ドローンと無人ヘリの比較試験

また、ドローンは無人ヘリに比べ小型であり、水稲より散布水量が多い畑作での普及性を懸念する声があったため、今年8月に作業性比較試験を行いました(写真1)。

「約2haの圃場で畑作での農薬散布を想定して試験したところ、機材運搬、散布の準備、散布、機材の撤収、圃場の移動などを含めると、ドローンの作業時間は無人ヘリの約半分でした(表2)」

ドローンと無人ヘリの比較試験結果
表2. ドローンと無人ヘリの比較試験結果
※1 無人ヘリは同じ場所を2回重複して散布。
※2 薬液補充やバッテリー交換。 試験は1.9haの圃場(旭川市)で実施、10a当たり散布水量は1.6ℓ。

ドローンはタンクが小さくバッテリーの持続時間も短いため、何度も交換が必要ですが、散布水量を調整できるため、畑作場面で多い10a当たり1.6ℓの量も度に散布できます。方、ヘリは通常、ノズルを変えない限り10a当たり800㎖しか散布できないため、1.6ℓの場合は同じ場所を2回飛行しなければなりません。また、運搬時のプロペラの脱着や、フライト前の暖機運転に時間がかかりました。

「圃場が離れていて移動が必要なら小回りのきくドローンはメリットが大きい」と丹羽さん。散布水量の多い畑作などでも、防除手段のつになり得ると考えています。

ホクレンでは、ドローンによる請負散布事業確立に向け、委託業者と連携し2019年より実証試験を行っています。今後、準備が整い次第、各J‌Aに展開していく予定です。